(澪) 三人で過ごす時間は、私の戸惑いをきれいに消してくれました
繋がれた手に、私たちの深い絆を感じます
事件は、そんな時に起こったのです…
朝、巧(成宮寛貴)が高熱で倒れているのを発見した澪(ミムラ)は、懸命に看病していた。
万里子(岡本綾)は出勤して来ない巧を心配し、秋穂家を訪れる。
玄関のチャイムを鳴らすと、ドアを開けて出てきたのは死んだはずの澪だった…。信じ難いものを見た万里子は呆然と立ち去る。
万里子が澪に会ったのを知った巧は、事情を説明するためあわてて図書館に電話をするが、万里子はいなかった。
万里子は呆然としたままとぼとぼ歩いていると、涼子(三田佳子)に声をかけられ榎田家に立ち寄る。
涼子は巧に酷いことを言ったのを悔んでいた。
(涼子) 私…どうかしてた
死ぬまでずっと、ここに抱え込んでくはずだったのに
取り返しのつかないこと言ってしまって
もう澪に顔向けできないわ、ダメね
死んだはずの澪に出会ってしまった万里子だが、涼子にはそれを明かすことができなかった。
澪の献身的な看病もあって、夕方になると巧の体調は回復する。
夜、澪が先に寝てしまうと、佑司(武井証)は気になっていたことを巧に相談をする。
(佑司) たっくん、僕ね、絵本見ちゃったんだ
(巧) え…
『雨の季節は終わります。ママは青空とともにアーカイブ星に帰っていったのでした』
そんなことないよね?
ママはぜったい一緒だよね?
たっくんてば…
佑司、パパにもわかんないんだ
雨の季節が終わって、ママがどうなっちゃうのか
パパにも予想がつかない
たっくん…
不安になる佑司を巧は抱きかかえる。
翌朝。まだ澪が眠っている間に、巧は絵本を物置場のタンスの中に隠す。そして普段よりも早く出勤する。
万里子は出勤前に、秋穂家に立ち寄る。
庭から家を見つめながら、「やっぱり思い過ごしかな」とつぶやき立ち去ろうとすると、ちょうど澪と佑司が家から出てくる。
澪は登校する佑司を見送り、洗濯物を干しに万里子のいる方へと近寄ってくる。
そして万里子を見つけると、「おはようございます」と挨拶する。
(澪) あの…巧さんには会えましたか?
(万里子) あぁ…
今日はすごく早くに家を出たみたいで
たぶん万里子さんに何か用事があったからだと思うんですけど
あ、さぁ…
何か伝言あったら?
あ、いえ、今日は…
いいんですか?
後で図書館で会えると思うんで…
万里子は澪を前にして気が動転し、言葉に詰まる。
図書館に出勤した万里子は、巧に「澪に会ってきたの」と告げる。
休憩中に二人だけで話をする巧と万里子。
(万里子) 驚いた
(巧) 僕も驚いてる
まさかそんなって、息が止まった
はじめはね、澪によく似た人なのかなって思った
でも違った
中学生の時にね、澪が間違えて憶えちゃった歌があって、それ歌ってて
だから、やっぱりあれは澪なんだって
でも澪は、私と一緒に歌ったこと憶えてなかったみたい
ごめんね、自分でも何を言ってるのかよくわからない…
僕もよくわかんないんだけど
澪は記憶を失くしたまま、雨の季節に帰ってきたんだ
だから僕のことも、佑司のことも、君のことも…覚えてないんだ
あの、この話、君の胸だけに閉まっておいてくれないかな
お願いします
今の生活を、壊したくないんだ
僕にとって澪は、たった一人のかけがえのない存在で
澪の代わりなんか、どこにもいないんだ…
万里子は静かにうなずく。
巧は帰宅途中、榎田家に立ち寄り、涼子に澪の存在を打ち明けようとする。
(涼子) 話って、何かしら
(巧) お母さんを苦しめてしまったのは、全部僕の至らなさです
だからお母さんは、何も間違ったことなんか言ってない
今、僕の家にいるのは澪なんです
え…?
僕と佑司と、今一緒に暮らしてるんです
何言ってるのあなた
澪と会ってやってください
僕は澪と一緒に居る時だけは、すべての悲しみを忘れることができます
だからお母さんも、僕と同じように救われるような気がするんです
澪もきっと喜びます
突然、巧をビンタする涼子。
巧さん、悪いけど今の話、あなたの苦しまぎれの言い訳にしか聞こえない
娘を亡くした母親の地獄が、誰にでもわかるなんて思っていないわ
でもね、澪が蘇っただなんて、言っていいことと悪いことの区別もつかないの?
澪が戻ってくる時は、あなたのところなんかじゃない
私のところに来てくれるはず…
巧は失意のまま榎田家を後にする。
巧が診療所の前で立ち止まっていると、往診から帰ってきた尚美(余貴美子)が声をかける。
涼子に澪がいることを伝えたものの、信じてもらえなかったと話す巧。
尚美は「あなたの想いは涼子先生の心に届いてると思うよ」と励ます。
一方、澪は親友のはずの万里子が自分を見てひどく驚いていたことを気にしていた。
また、森で目覚めた時以前の記憶が回復してないこともあり、佑司を連れて森に散歩に行ってみることに。
尚美の診療所のテレビでは、今年は梅雨明けが早くなるかもしれないというニュースが流れていた。
巧が帰宅すると家に澪と佑司はいなかった。
外は太陽が照りつけ、梅雨明けは確実に近づいていた。
不安になった巧は森へと向かって走る。
澪と佑司は森のトンネルの向こうにある廃工場に来ていた。自分が目覚めた場所に座り、目を閉じてみる澪。
そこに巧がやって来て、澪を見つけると駆け寄って抱きしめる。
(澪) どうしたの?
(巧) 君が消えてしまいそうな気がして…
巧さん
良かった…
ほっとした巧は澪と並んで座る。澪が巧の手を取り、「私の話の続き、教えて」と。
巧は回想の続きを話し始める。
* * * * * 高3時代の回想シーン * * * * *
(巧) 高校3年の夏は、辛い思い出が多いんだ
短距離走の競技会の予選を突破し、本選に出場することになった巧。このレースには中学時代からのライバルである工藤も出場していた。
君は競技会に応援に行きたいと手紙をくれていた
でも僕は、君が来ると舞い上がっちゃうから、大会には来ないでくださいって返事を書いたんだ
レースが始まった。出遅れた巧はピッチを上げると、次々と追い抜いてトップに迫る。
しかしトップを走っていた工藤に追いついたところで、肘をぶつけられて巧は転倒してしまう。
わざとかもしれない
わざとじゃないかもしれない
でも結局、負けは負けだ
なんとか起き上がった時、なんだか君がそこにいたような気がした
気のせいかもしれないけど…
成績上位者が表彰されている間、巧が荷物をまとめてトラックを後にしていると、突然トラック内の照明が落ちる。それが誰の仕業かはわからなかった。
高校時代の最後の競技会が、あとひとつだけ残されていた
やるだけやってみたい
後悔だけはしたくない
今思えばあの時から、僕の中のスイッチが入ってしまったんだ
全力で走ることができなくなった
それどころか、人ごみの中に立つことさえ難しくなった
ついに、学校には行けなくなった
退学届けを出したのはその半年後だった
何軒の病院を回っても、正式な病名はわからなかった
どう頑張っても、普通の人の半分やれるかやれないか
そんな僕の症状にイラ立ちながら、どうすることもできなかったんだ
僕は君にふさわしくない
僕は君に手紙を書いた
『のっぴきならない事情があって、君にもう手紙が書けなくなりました
僕のことは忘れて下さい 秋穂巧』
* * * * * * * * * * * * * *
(巧) それが君に書いた最後の手紙になったんだ
(澪) 私、その手紙を受け取って、きっと急いで手紙を書くの
でもいくら待っても返事は帰ってこなくて
また私は手紙を書いて、でもやっぱり返事は来なくて
辛かったけど、また手紙を書いて
それから…私はあなたを訪ねて行った
そうだよ
でも僕は、せっかく君が訪ねてきてくれたのに、何も話さなかった
私も、黙ってた
うん
不思議…
まるでずっと前から、知ってたような気がするの
私、もう記憶なんか戻らなくても、巧さんが側にいて
小さな疑問とか不安とか、きれいに消えてて
抱きしめられて
それだけで、こんなに嬉しくて
澪…
ん?
キスしてもいいかな…
静かに目を閉じる澪に、そっとキスをする巧。
陰で二人を見ていた佑司は微笑む。
三人は手を繋いで家へと帰る。
その夜、巧と澪は同じ布団に入って一緒に寝ることに。
おじゃまします
そうなんだ
え?
僕の肩先に、君の髪があって
僕の腕に、君がすっぽりくるまって
僕らのベストポジションなんだ
巧は澪を抱きしめる…。
次の日、私は家中のガラスを磨きました
私の心がピカピカで
ついでに窓もピカピカにしたくなって
壁にかけられていた結婚写真の額が落ちたので、工具箱を取りに物置にやって来た澪。
タンスの中にある工具箱を取ると、近くにしまわれていた一冊の絵本が目に入る。
表紙に刺繍が施されている絵本を「かわいい」と言いながら開いてみる澪。
絵本には、亡くなった澪が雨の季節に帰ってくること、そして雨の季節が終わったらまた去っていくことが書かれていた。
澪が亡くなる前に描き遺した絵本だったのだ…。
この絵本を見たことが、すべてのきっかけでした
閉じられた重い扉を、私は開けてしまったのです…
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