(澪) 私はすべての記憶を失いました
気がつけば私には、夫がいて、子どもがいて
でも私は、この瞬間こそ大切にしようと心に決めました
私は、あるがままの私でいたいと思います
庭でバーベキューの準備をする巧(成宮寛貴)。
そこに澪(ミムラ)がやって来て、巧の隣に座る。
巧は中学卒業後の二人について話し始める。
* * * * * 中3〜高1の回想シーン * * * * *
卒業式の日、澪に頼まれてサイン帳に「君のとなりは居心地がよかったです」と書いた巧。サイン帳には巧のシャーペンが挟まれたままになっていた。
(巧) あのシャーペンが、卒業式の後、離れ離れになる僕らを繋いでくれたんだ
君は地元の高校に進んで
僕の方は家庭の事情がいろいろあって、この街を離れて暮らすことになったんだ
でも僕は毎日、君のことばかり考えていた
君の声が聞きたくて、たまらなくて
今日こそ君に電話しようって、何度も心に誓って
巧は澪に電話をかけようとするが、「はい」と澪が出たところで勇気が出ずに受話器を下ろしてしまう。
こんなことをしてるうちに、君は僕のことなんか忘れてしまうかもしれない
僕がやっと君に電話できたのは、高校1年の夏休みだった
電話口に涼子先生が出てきたらなんて言おうって、それだけで頭がいっぱいで
また君の声を聞いた途端、頭が真っ白になって、でも僕は勇気を振り絞った
(高1の澪) はいもしもし、榎田です
(高1の巧) あの…秋穂です
中学で同じクラスだった、秋穂巧
え…
実は卒業の時の君のサイン帳に、僕シャーペン忘れちゃって
それ、返してもらっていいかな…
何度も練習しすぎて、このシャーペンの話だけベラベラ喋ってた
なんとか一週間後に、君と会う約束をして
それからはもう、何をしても手につかない日が続いたんだ
約束の日、僕は久しぶりにこの街に戻ってきた
待ち合わせたのは、僕らが卒業した中学のグラウンド
中学のグラウンドは夏祭りの会場だった。
巧が澪を探し歩いていると、浴衣姿の女性とぶつかってしまう。
それが君だとわかって、僕は息が止まりそうだった
どうして?
君がきれいになってて
考えてみたら、制服以外の君を見るのは、その時が初めてだったんだ
夏祭りの会場で半年ぶりに再会した二人。
これ… (シャーペンを差し出す澪)
うん
みんな楽しそうだね
そうだね
……
……
じゃ…
用件が済んで帰ろうとする澪に、巧が声をかける。
あの…
花火やろっか
ただ、君を引き止めたい一心だった
僕らは雨宿りができる場所を見つけて
ムードはないし、焦るばっかりで話題もないし
しかもしけっていて、火がつかない
浴衣姿を誉めようとして…
その浴衣の柄、なんだか線香花火みたいだよね
え?
しけってなかなか火が出てない感じが出てるよね
よく似合う
……
焦ってフォローに走って
さらにドツボにはまって、撃沈した
次の冬休みの約束も必ずしようと思ってたのに
そんな勇気はすっかりなくなってた…
* * * * * * * * * * * * * *
そんな思い出話をしていると佑司(武井証)が帰ってくる。
夜は庭でバーベキューを楽しむ巧たち。
翌日。巧が図書館に出勤すると、リストラ話が持ち上がる。
町が財政難で、フルタイムで働けない巧が人員整理の対象になったのだ。
話を聞いた巧は館長に頼み込む。
(巧) あの…フルタイムで働くことが条件なら、やります
やらせてください
(館長) しかし君は身体の方が…
僕には、守らなくちゃいけない家族がいるんです
どうかよろしくお願いします
館長に急用が入り、この話は持ち越しとなった。
いつもの時間に帰ってこない巧を、家の前で待つ澪と佑司。
巧は残業で遅れて帰って来ると、仕事疲れからか、夕食後にはテーブルに座ったまま寝てしまう。
翌朝。仕事が忙しいため「これからは帰りは遅くなると思う」と澪に告げる巧。
「私にできることない?」と澪は気にかけるが、巧は「安心して、僕が守るから」と言い、澪に頼ろうとはしなかった。
巧がいつも帰宅する夕方4時になると、同僚の万里子(岡本綾)は「後は私にまかせて」と言って巧の帰宅を促すが、巧は「僕も残業やります」と言って遅くまで残業することに。
夜遅くに帰ってきた巧は、また居間で座ったまま眠ってしまう。澪は巧の体調を心配するが…。
巧は自分のいつものペースを壊して無理を重ねたことで、身体に異変が生じ始めていた。連夜の残業中に、ついに発作が起きて倒れてしまう。
連絡を受けて、図書館までやって来た主治医の尚美(余貴美子)。
尚美は「どうして私に相談してくれなかったの?」と巧を責める。発作が起きたのは自分のペースを変えたことが原因だった。
尚美の命令で、巧はフルタイムでの労働や残業を禁止される。
榎田家。澪の母・涼子(三田佳子)は、この前、図書館の職員が「巧に彼女ができた」と言っていたことが気にかかっていた。
それを夫(山本圭)に話すと、「それはそれでいいじゃないか、巧くんだってまだ若いんだ」と。
しかし涼子は「佑司だって戸惑うと思うの」と納得できない。
今夜も帰りの遅い巧を図書館まで迎えにいこうと考えた澪。ケーキ店の夫婦に図書館までの道のりを教えてもらう。
図書館の近くまで来ると、巧と万里子が向こうからやって来るのが見える。
仲良さそうに話している二人を見て、澪は嫉妬したのか声をかけることができずに…。
翌朝。登校中の佑司が巧と話している。
(佑司) ママ、なんだか変だったね
ママはたっくんの病気のこと、気にしてたよ
(巧) え?
すごい心配してた
そっか…
さらにケーキ店の店主が通勤中の巧に「昨夜は奥さんとすれ違いになりませんでしたか?」と声をかける。昨夜、澪が迎えに来ていたことを巧は初めて知る…。
仕事中、澪のことが気になっていた巧は、万里子にお願いして早退すると、家に駆けつける。
縁側に並んで座り、病気のことを告白する巧。
(巧) 僕は、病気なんだ
原因はよくわからないんだけど、強いストレスを感じると、脳の中が乱れちゃう病気で
人によって症状はいろいろなんだけど
僕の場合は、エレベーターに乗ったり、電車に乗ったり、とにかく自転車以外の乗り物は、全部ダメで
車の助手席に乗ることすらできないんだ
人ごみの中では動悸が激しくなるし
いつもと違うペースになると、調子が狂うのもこの病気のせいで
(澪) いつから…?
高校3年
そんな頃から
でもね、この町で尚美先生に出会ってから、僕は変わった
病気を受け入れて、ゆっくり付き合っていこうって思ったんだ
今、図書館で僕はリストラの対象になってる
僕は頑張った
ここでクビになるわけにはいかない
最近、帰りが遅いのはそのせい?
うん
でも案の定、無理がたたって、昨日の夜、仕事中に発作を起こして倒れたんだ
え?
尚美先生が駆けつけてくれて、なんとか治まって
帰りは永瀬さんが途中まで送ってくれた
状況はどうであれ、職場で倒れてしまったことは事実で
僕のリストラはこれで決定的になったかもしれない
僕は覚悟が足りなかったのかもしれない
病気のことも、君にずっと隠してた
リストラのことも、君に言えないでいた
でも…病気のことよりも、仕事のことよりも、もっと大事なことがあるって、気づいたんだ
君には苦労をかけるかもしれない
でも、僕はどんなことがあっても、君と佑司のことを守るから
私は…もっと頼って欲しかったんです
え…?
大丈夫だから、買い物も行かなくていいからって言われた時とか
夜遅くなるなら電話をして欲しいって思ったり
急に忙しくなった理由も、できる範囲でいいから教えて欲しいなって、わがままな私もいて
それから、巧さんが万里子さんと一緒にいるの見て、ほんとは声かければよかったのに
なんか苦しくなっちゃって
声をかけないで帰っちゃったんです
でも全部、私の誤解だった…
ごめんなさい
僕の方こそ、ごめん…
苦笑いの二人。
巧は恋の回想の続きを話し始める。
* * * * * 高1の回想シーン * * * * *
(巧) 高校1年の最悪な夏が終わって、季節はいつの間にか、もう冬になっていて
あれから君に、電話もまったくかけられなくて
それなのに僕は、いきなりこの街に来てしまったんだ
君が会いに来てくれる自信なんか、まるでない
でも僕は君に一目会いたくて、どうしても会いたくて
君にやっと連絡が取れた時は、夢かと思った
巧に会いに駅のホームにやって来た澪は、巧を見つけると「秋穂くん…」とつぶやく。
僕は夏の二の舞になるのが怖くて、息もつかずに話し込んで
つまらない話にクラクラきてたのは、君だったかもしれない
駅のホームのベンチでずっと話し込んでいた二人。
もう帰らないといけない時間になって
でも君とどうしても別れ難くて
帰りの電車を何本も見送った
寒さで手に息を吹きかける澪。
(高1の巧) ポケット、ここ空いてるから
よかったら…
(高1の澪) じゃあ、おじゃまします
巧のコートのポケットに手を入れる澪。
その時、君の笑顔を見て、僕は自分でも信じられないことをしたんだ
澪が手を入れているポケットに、巧も手を入れる。二人は初めて触れ合う…。
あの日、僕は初めて君と向き合った
君が僕の気持ちを受け入れてくれたことが、ただただ嬉しかった…
* * * * * * * * * * * * * *
話をしながら縁側で線香花火をしていた巧と澪。
くしゃみをする澪に「寒い?」と巧。
(巧) 寒かったら、ポケット空いてるよ
(澪) …じゃあ、おじゃまします
巧の上着のポケットに手を入れる澪。
私、巧さんのもっと近くにいたい
もう一度、巧さんを好きになりたい
巧もポケットに手を入れ、手を繋ぐ…
結局、巧はリストラされず、図書館に残れることになった。
館長(谷啓)と尚美(余貴美子)が巧に内緒で役所にかけあっていたのだ。
涼子(三田佳子)がおみやげにケーキを買って、佑司に会いに行こうとしていた。
ケーキ店の夫婦が佑司の祖母だと気づくと、「奥さんきれいな方ですよね」と店長。
その女性が誰のことだかわからない涼子は不審な表情を浮かべる…。
秋穂家にやって来ると留守だった。
仕方なく、ケーキをドアの前に置いて帰る涼子。
その頃、巧・澪・佑司は手をつないで野原を散歩していた。
(澪の回想のナレーション)
あの時、手をつないで歩くのは、ちょっと恥ずかしくて
でも6週間という短い時間の中で、あなたとまた恋ができるなんて
私は思いもしませんでした
あなたと寄り添って、見つめあって、手をつなぐ
ただそれだけのことなのに、胸が震えます…
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