(澪) この小さな家の中は、家族の記憶で溢れています
それぞれが大事な思い出で、大切なたからもの
暖かな思い出に囲まれて
私たちは少しづつ、家族になっていきます
まだどこかよそよそしい態度の巧(成宮寛貴)と澪(ミムラ)。
そんな二人の姿を見て「ママはたっくんにまだ、よその人みたいだよね」と指摘する佑司(武井証)。
「お風呂一緒に入れば?」と佑司は提案するが、巧も澪も気恥ずかしさから話をごまかす…。
巧が物置から古い本を引っ張り出してくる。
図書館のバザーにいらない本を提供するためだ。
本の束の中には中3の教科書が混じっていた。
澪がめくってみると、ページの隅にはパラパラ漫画が書き込まれていた。澪が書いたという。
(巧) 中学時代、僕らの席はずっと隣同士だったって話はしたよね
二人の間には狭い通路だけ
僕にとってその通路は、深くて渡れない川みたいなものだったんだけど…
君がそこにいるというだけで、僕は十分、幸せだった
* * * * * 中3の回想シーン * * * * *
休み時間中、男子生徒が教室で遊び回っていると、巧の机から教科書が落ちる。落ちた教科書を拾い、近くの机に置く生徒。そこは澪の机だった。
澪は自分の教科書と勘違いしてパラパラ漫画を描き始める。
(巧) 君は絵を描くのが本当に好きで
暇さえあれば、どこかに何かを描いてた
パラパラ漫画が完成した時、澪はそれが巧の教科書であることに気づいて青ざめる。ちょうど教室にやって来た巧に、「ごめん…」と言って教科書を渡す澪…。
* * * * * * * * * * * * * *
「しっかりしているようで君は…」と、楽しそうに過去を振り返る巧。
(澪) 昔の話をしてる時の巧さんって、本当に楽しそうですよね
(巧) そうかな?
澪は過去の自分に、嫉妬心のようなものを感じ始めていた…。
町の交通安全教室で、自転車の乗り方が上手だった佑司が賞をもらう。
家に帰ってそれを澪に報告し、「今度みんなでサイクリング行こうよ」と佑司。
澪は賛成するが、佑司は大事なことを思い出す。澪は自転車に乗れないのだ…。
記憶を失くした澪はそのことを知らず、「自転車ぐらい…」と言って乗ってみるが、すぐに転んでしまう。
自転車にも乗れない自分に落ち込む澪。
澪は中3の時に、パラパラ漫画で自転車に乗れずに転んでしまう自分を描いていた。
漫画の内容は、練習しても乗れずに泣いている自分の元に男の人がやって来て、澪を自転車の後ろに乗せて一緒に走る結末だった。
澪が描いたその男性が誰なのかは、分からないままだった…。
真夜中、眠れない澪が水を飲みに来ると、物音に気づいた巧が目を覚ます。
澪は自転車に乗れないことよりも、そんなことすら憶えていない自分にショックだったという。
両親の話題になると、澪が家を見てみたいと話す。
自分の家を見たら、何か思いだすかもしれないと…。
巧に連れられて家の前までやって来ると、急に雨が降り始めて、帰ることになった。
澪と涼子(三田佳子)は顔を合わすことはなかったが、互いに相手の存在をどこかで感じていた…。
澪の実家の近くにはお地蔵さんが置かれていた。雨に濡れるからと、ハンカチを取り出して頭にかぶせる澪。
翌朝。涼子はハンカチが頭に被せられたお地蔵さんを見つけると、そこに澪を感じて不思議そうに微笑む。
澪は昔から、雨が降った時はよくお地蔵さんにハンカチを被せていたのだ…。
真夜中。澪は起き出すと、忍び足で外へ出て行く。
しかし翌朝には元気に巧と佑司を見送る。
その手には絆創膏が貼られていた。
その日の夜もまた、皆が寝静まると澪は外へ出て行く。
巧が気づいて外を見ると、澪は庭で自転車の練習をしていた。
しかし何度トライしてもすぐに転んでしまう。
巧は澪に声をかけて練習に付き合うが、それでもなかなか上手くいかない。
練習を終えて家に帰る二人。
(巧) どうして急に練習しようと思ったの?
(澪) 何か変わるんじゃないかと思って
自転車に乗れるようになれば、昔の私じゃなくて、今の私になれるような気がして
昔の私?
巧さんの過去の中にいる、私…
僕にとっては今の君も、過去の君も同じだよ
過去と今の間で足踏みしてる、もやもやしてる自分を吹き飛ばしたいんです
あ、何言ってるかわからないですよね
いや
今日はどうもすみませんでした
明日から一人でやります
でも…
一人でやりたいんです
私の問題なんです
翌日、尚美(余貴美子)の診療所を訪れた巧。
(巧) 僕、澪はすごいと思いました
過去と今が繋がってないだけでも辛いのに
もっと前に進んで、記憶がない自分を乗り越えようとしてる
(尚美) そういう人だったね、澪さんは
先生、僕は彼女に何をしてあげられますか?
そうだなぁ
あなたがくっつけてあげたらどう?
え?
澪さんの、過去と今
そんな
大丈夫、応援してるその気持ちさえ伝わればいいんだから
あなたならできる
野菜を分けてもらいにケーキ屋を訪れた澪。
そこで店主の妻・あすか(中井美穂)から相談を受けることに。
夫と初デートの日のことを話していたら、当日は雨が降ってなかったにも関わらず、夫は幻想的な雨の思い出を語った。
「絶対私と誰かを間違えてるのよね」と怒りをあらわにするあすか。
(あすか) なんかさあ、そういう人との楽しい思い出話をされても
立場ないっていうか面白くないっていうか、そんなことない?
(澪) あぁ…
あるんだ?
自分が覚えていない昔のことを、楽しそうに話している巧さんを見ると
そうすると、なんだか寂しいんです
最初はそうじゃなかったんです
憶えてない思い出話も、前向きに楽しんで聞けたし
でも最近、昔の話を聞けば聞くほど、寂しくなっちゃって
どうしてだか、自分でもわからないんですけど…
(俊輔) それは、すごくいいことなんじゃないかな
たぶん奥さんは、ご主人のこと、どんどん好きになってるんですよ
まだ恋愛中ってことかな
だからね、思うんですよ
”昔の私じゃなくて、今の私を見て
今あなたの目の前にいるのは私よ”っていうんじゃないですか?
かわいらしい女心ってやつですよ
うらやましいなぁ
その日の夜も、澪はひとりで自転車の練習をしていた。
巧は中3の教科書をパラパラとめくりながら、あることを思いつく。
仕事を終えて家に帰ってきた巧に、疑問をぶつける澪。
(澪) あの…私たちはいつ付き合い始めたんですか?
(巧) え?
知りたいんです、私たちがどうやってお互いの気持ちを知ったのか…
* * * * * 中3の回想シーン * * * * *
きっかけは、ほんの些細なことだった
中学生活が終わる頃になっても、相変わらず僕らはほとんど口を聞かなかった
二人の間にそれぞれの日常が流れて、そうしてこのまま別れてしまうんだろうと思ってた
そんな僕らの関係が変わったのは、卒業式の日
すべての行事が終わり、荷物をまとめて教室を後にする巧。
澪は教室から出て行く巧を呼び止める。
秋穂くん
これ…書いてくれる?
サイン帳を差し出す澪。
巧は”君のとなりは居心地がよかったです ありがとう”と書き込む。
それを見た澪は「私も、秋穂君の隣は居心地が良かった…」と言い残すと、走って去っていく…。
* * * * * * * * * * * * * *
そこから、僕らの物語はスタートしたんだ
よくやく始まったんですね
そう、ようやくね
澪は中3の教科書を持ってくると、「これ…」と言って巧に見せる。
巧は昨夜、澪が中3の時に書いたパラパラ漫画の後に、3人で一緒に走る続きを書いていた。
それは澪が自転車に乗れるかどうかよりも、今一緒にいられることの幸せが感じられる内容だった。
「ありがとう…」と微笑む澪。
後日。ムキになって続けていた自転車の練習をやめた澪。
巧は澪を後ろに乗せて、自転車で森の中を走る。
佑司も自転車で二人を追いかける…。
(澪の回想のナレーション)
私にとって大事なのは、巧さんや佑司と一緒にいる今
それを気づかせてくれたのは、巧さん、あなたです
その時に私は、新しく出会った私たちも、ようやく始まったような気がして
とても幸せでした
どこにいてもあなたたちの隣が、私にとって一番居心地のいい場所
巧さん、佑司
ずっと私のそばにいてくれて、本当にありがとう…
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