(澪) あの日起こったことは、奇跡だったの?
目を覚ますと、私には夫と子どもがいて
私はすべての記憶を失くしていた
でもきっと、ここが私の居場所なんだ
そうでしょ? 巧さん
佑司(武井証)が目を覚ますと、澪(ミムラ)の姿が見当たらない。
澪は二人よりも早く起きて、庭で洗濯物を干していた。
佑司は澪の姿を見つけると「夢じゃなかった! ママが帰ってきた」と喜ぶ。
巧(成宮寛貴)は喜ぶ佑司の口をふさぎ、バスルームに連れて行くと、
澪が1年前に死んだことは本人には知らせないこと、澪が生前に遺した絵本は見せないこと、また澪が帰ってきたことはしばらく誰にも言わないことを、改めて確認し合う。
洗濯を終えた澪は朝食を作っていた。
昨日佑司が連れ帰り、飼うことになった子犬が、家の中でおしっこをもらしてしまい、ちょっとした騒ぎに。
佑司は朝食を食べながら、「おしっこってどうかなぁ」と子犬の名前を考える。
巧はもっと普通の名前を考えるが、「私は、おしっこっていいと思うけどな」と澪は微笑む。
「いってらっしゃい」と澪に見送られながら、通勤・登校する巧と佑司。
澪に異変を気づかれないように、二人は澪が帰ってきた喜びを懸命に抑えていた。
明日は佑司の小学校の授業参観日。
死んだはずの澪が皆の前に現れるわけにはいかないので、巧が仕事を休んで行くことになっていた。
佑司のクラスでは、「わたしのかぞく ぼくのかぞく」というタイトルの作文を書くことになった。明日の授業参観の時に読むのだ。
「お家の人たちの、すっとこどっこいなところを書けばいいの」と担任の沙織(MEGUMI)はアドバイスする。
一方、巧は仕事中にミスをしてしまい、図書館に来ていた子どもを泣かせてしまう。いつもミスして同僚の万里子(岡本綾)らに迷惑をかけている巧は自己嫌悪に陥る。
仕事の帰り、巧は以前から通院している診療所へ。主治医は気さくな尚美(余貴美子)で、巧は信頼を寄せていた。
「澪が帰ってきたんです」と巧は初めて人に打ち明ける。
(尚美) え? 澪さんが帰ってきた?
(巧) とてもすぐ信じてもらえる話じゃないって、わかってます
確かに驚くね、それで?
佑司が喜んでるんです
澪にしがみついて離れません
でも澪はまた、梅雨の季節が終われば消えていくんです
なぜわかるの?
生前の澪が遺していった絵本のラストに、描かれてるんです
でも、佑司はまだそのことに気付いていません
澪が帰ってきてくれて、僕も心臓を素手でつかまれたような衝撃でした
最初は人違いじゃないかって思って
いや、これは澪なんだって、確信して…
でもよく考えてみれば、澪はいずれまた、消えていく運命なんだって
それがわかってるのに、幼い佑司にまた、母親を失うつらい別れを、二度までさせていいものでしょうか?
尚美は「佑司くんではなく、あなたはどうしたいの?」と聞き、「覚悟さえあれば、たとえそれがどんな過酷な運命でもきっと、佑司くんは乗り越えられる」と巧を励ます。
一方、部屋の掃除をしていた澪はアルバムを見つける。
そこには母・涼子の写真もあったが、澪は母の記憶も失っていた。
その涼子(三田佳子)は澪の死後、中学の教師をやめて華道教室を開いた。その華道教室には澪の中学時代からの友人・万里子(岡本綾)も通っている。
教室が終わった後、公園で話す二人。
(万里子) 澪の一周忌で、私いろんな人に聞かれました
家庭科の涼子先生、教師やめちゃったの?って
(涼子) 私もまさか、自分が教職捨てるなんて考えたこともなかったわ
でもね、澪が亡くなった後は、何にも手につかなくて
あの頃はほんとに地獄だったわ
澪と秋穂くんが付き合ってたこと、全然知らなかったって、先生いつかおっしゃってましたよね
驚いたんじゃないですか?
二人が結婚したいって、言ってきた時
でも誰か好きな人がいるんじゃないかっていうのは、感じてたの
でもね、まさか19歳の若さで結婚って
しかも相手が秋穂くんって聞いて、もう驚いて驚いて
秋穂くんも先生の中学の教え子ですもんね
そうよ
何度も言って聞かせたの
二人ともまだ若いんだから、結婚はもう少し待ったらって
せめて大学卒業してからになさいって
でもね、ああいう子でしょ?
芯が強いですもんね
そう、私も折れてしまってね…
きっと澪は、天国で先生に感謝してると思いますよ
そうかしら? それはわからないわ
澪は掃除中に、佑司の体操着を入れる袋を見つける。
汚れていたので洗濯するが、汚れが落ちない。
澪は新しく作り直し、自作したクマのアップリケを貼った。
学校から帰宅した佑司は新しい体操着入れを見つける。
「新しいの作ってみたの」と澪。
佑司は「ありがとう」と言いつつも、どこか浮かない顔を見せる。
翌朝。巧が起きると万里子(岡本綾)から電話がかかってくる。父が倒れて仕事に行けないので、代わりに出て欲しい頼まれる。
いつも世話になっている巧はその頼みを断れず、代わりに出勤することに。
その結果、佑司の授業参観には行けなくなってしまい、巧が来るのを楽しみにしていた佑司はショックを受ける。
(佑司) 参観日に家の人が誰も来ないなんて、きっと僕だけだよ
(巧) …ごめんな
しかし死んだはずの澪に代わりに行ってもらうことはできなかった。
佑司は諦め、しょんぼりとして登校する。佑司が登校時に手にぶら下げていたのは、昨日澪が作った新しいものではなく、古い体操着入れだった。
食材がなかったため澪が買い物に出かけると、近所のケーキ店の夫婦が畑で農作業をしていた。作った野菜を売っているのだ。
澪はそのことを知ると野菜をわけてもらうが、その時「今日は参観日じゃないんですか?」と俊輔(生瀬勝久)に言われ、今日が佑司の参観日であることを初めて知る。
佑司のクラスの授業参観の時間。
皆は嬉し恥ずかしそうに家族についての作文を読むが、家族が誰も来ていない佑司は下を向いて塞ぎこみ、昨日書いた作文もくしゃくしゃに丸めてしまう。
作文の授業が終わり、次は校庭で体育の時間。父母と子どもたちが混じって競技をしていたが、佑司はその輪には入らずひとり離れたところに座っていた。
たまたま通りかかった澪の母・涼子(三田佳子)は、孤独な佑司を見つけると、学校の帰りに家に連れて来る。
そして、「どうして私を頼ってくれなかったの? 佑司がかわいそうだわ」と巧の勤務先に電話をかける。
巧が仕事から帰ってくると、「どうして私に言ってくれなかったんですか? いくら記憶がなくたって、参観日に行くぐらい…」と澪。
また澪は新しく作った体操着入れではなく、佑司が古い体操着入れを持って行ったことが気にかかっていた。
佑司は家に帰ってくると、澪から離れるように「森に遊びに行って来る」と言い、すぐに出て行ってしまう。
巧は佑司を追いかける。遊び疲れて眠った佑司を抱きかかえながら巧が帰宅すると、森の入り口まで澪が迎えに来ていた。
(巧) こいつ重くなった
(澪) 私早くいろんなこと思い出さないと、佑司くんに申し訳ない
焦らなくていいよ
そりゃ、思い出すのに越したことはないけど
思い出さないままなら、今日みたいなこと、また繰り返しちゃうような気がするんです
だから、何か思い出すきっかけになりそうなもの、ありませんか?
何でもいいんです
…ちょっと寄り道していく?
佑司を抱きかかえたまま、巧と澪はかつて通った中学校へ。
夜なので校舎の中には誰もいなかった。
(巧) ここが僕らが通った中学
僕たちが初めて出会った場所だよ
3年2組、僕らのクラスだ
3年になって初めて、僕たちは同じクラスになったんだ
巧が席に着くと、澪もその隣の席に座る。
そうなんだ、僕がここで、君はそこ
僕たちの居心地のいいベストポジションは、いつもこんな感じだったんだ
君は覚えてるんだよ、もっと深いところで
* * * * * 中3の回想シーン * * * * *
巧と澪は中学3年生。同じクラスで席は隣だったが、特に言葉を交わす関係ではなかった。
巧は陸上部、澪は美術部に所属していた。
澪の描いた絵が美術展で入選し、クラスで話題になる。走る青年の姿を描いた絵で、モデルは女性徒に人気があるアイドル的存在の工藤という噂が立っていた。
そんなある日、巧は陸上部の練習中に、校庭で絵を描いていた澪とぶつかってしまう。「ごめん」と言って澪を起こすと、巧はバラバラになった描きかけの絵を拾い集める。二人は絵を拾いながら、気になる様子で相手のことを見つめていた…。
* * * * * * * * * * * * * *
(巧) 教室では隣同士の席だったけど、僕らの出会いはこんな感じだった
(澪) 私、あなたとは違う人が好きだったんですか?
さあ、でも話にはまだまだ続きがあってね
いずれゆっくり話していくよ
家に帰ることになるが、校舎の段差で澪が転んでしまい、ランドセルの中の物が飛び出して、寝ていた佑司も起きてしまう。
プリントなどを拾い集めていると、そこには佑司の作文もあった。
『ぼくは子犬の名前におしっこがいいと言いました
そんなのダメって言われるかと思ったら
ママはとっても面白いとほめてくれました
ぼくのママは、話がわかる、すっとこです』
(澪) ごめんね佑司くん
私、佑司くんの寂しい気持ち、わかってあげられなかった
佑司くんだって、参観日誰も来なくて寂しかったんだね
でも一生懸命我慢して、今日は学校に行ってきたんだよね
そんながんばりやさんの佑司くん、誉めてあげなきゃいけなかったのに
気づかなくてごめんね
私、佑司くんが大好きだよ
(佑司) …ごめんなさい
澪は佑司を抱きしめる。
また少し三人の距離が縮まった。
夜の校庭で遊ぶ佑司を、近くで見守る巧と澪。
(巧) 体操着入れのことなんだけど
これ、君が入院してる時に、看護士さんの目を盗んで、病院のベッドの上で作ったものなんだ
佑司もそのことがあったから、だから古い方使ってて
(澪) 私、少し寂しかっただけかもしれません
昔の自分がうらやましくて…
いいんだ
いつか、僕たちの中学生の時みたいに、佑司にも同じように出会いがあって
佑司が僕らの家を巣立っていくまで、まだまだ時間はある
それまで、三人はずっと一緒だ
それだけでいいじゃないか
いいじゃないか…
(澪の回想のナレーション)
巧さん、6週間で消えていく私の運命は、あなた一人が知っていて
それでも、あなたは私のすべてを受け入れてくれました
あなたの決意は、どれほど大きなものだったんでしょう
あなたの愛情に支えられて、私は歩き出す勇気をもらいました
ありがとう、あなた…
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