お祭りから帰ると、母・由美(原田美枝子)が急に息を引き取り、皆に知らせに神社に駆けつけた幌(神木隆之介)。
家に帰ってきた豪(市原隼人)は母の身体を揺さぶりながら「起きてよ!」と懸命に声をかけるが、母の身体はもう動かなかった…。
一方、知らせを受けた父・徹生(竹中直人)は家に入ろうとせず、庭先で呆然と立ち尽くしていた。
(幌) お父さんは、家の中に入ろうとはしませんでした
大きな岩のように動かないお父さんは、ビクンビクン、肩が震えています
だから僕はお父さんがヒビ割れてしまわないように、しっかりと手を繋いでいました
夜が明けた。真柴家に来て通夜の準備を手伝う芳夫(高橋克実)と京子(高橋ひとみ)たち。
その夜、別会場で通夜が行われる。
しかし徹生が行方不明になり、会場にも姿を現さない。
みちる(綾瀬はるか)は通夜の出席者に挨拶して回るが、豪は母の遺体の側を離れようとしなかった。
豪の様子を見に来たみちる。「かいがいしくしっかり者アピールかよ」と言われたみちるは言い返す。
(みちる) あんたなんか何もしないでずっとそこ座ってるだけじゃない
私なんか朝からずっと…
(豪) 母さんがかわいそうだって言ってんだよ!
……
俺離れないからね
ずっと側にいるから…
豪を残して家に帰る途中、みちるが唄に話しかける。
(みちる) 唄、これからはね、お姉ちゃんのことお母さんだと思うのよ
(唄) どうして? お姉ちゃんはお母さんじゃないよ
そうだけど…お母さんはね、一生懸命みんなの面倒を見て、それで疲れちゃったから、お姉ちゃんにバトン渡したの
じゃあお姉ちゃんが疲れたら、唄にバトン渡すの?
さあ、どうかな
唄、足おそいからダメだよ
運動会のバトンとは違うのよ
ゆっくり、ゆっくりでいいの
誰と競争するわけじゃないから
大切なのはね、決して手放したらいけないの
転んでも?
そう
そっか、だったら唄も持てるね
いつかはね
だけどお姉ちゃん頑張るから、唄はそんな心配しないでいいのよ
通夜の後、祖父・明示(杉浦直樹)と幌は喫茶店に来ていた。幌を心配した愁も一緒に付いて来る。しかし幌も母の死にショックを受けたのか、明示が声をかけても黙ったまま口をきこうとしない。
店内で騒いでいた若いグループを明示が一喝すると、幌がようやく口を開く。母が好きだった歌を思い出せずに考え込んでいたという。
すでに朝になり、幌たちが家に帰ると、屋根の上にはなぜか徹生がいた。徹生は家に入らず屋根の上で一夜を過ごしたのだ。
芳夫(高橋克実)たち近所の住人や大判巡査(塚地武雅)らが集まってきて声をかけても、徹生は放心状態のまま降りてこようとしない。
ついに消防車までが呼ばれ、はしごを屋根にかけて豪が上る。
屋根に上がった豪に声をかけられても、徹生は「来るな!」とおびえて逃げていく。
(豪) このクソ親父! ほら早く
(徹生) 来るな…来るな!
いい加減にしろよ!
この後、告別式とか色々あるんだよ
それでも一家の主かよ
そんなもんなあ、おまえにくれてやるよ
母さんと会わなくていいのかよ
バカ野郎、由美にはな、いつだって会えるんだよ
最後のお別れしなくていいのかって聞いてんだよ!
しねえぞ!
そんなもん絶対しねえ!
いいから早く…
「来るな、来るな!」と言いながら後ずさりする徹生。
ついに足を滑らせ屋根から転がり落ちてしまう。
幸い怪我はなかったが、すぐ家の中に閉じこもって葬儀に出ようとしない。
徹生を置いて葬儀会場にやってきた豪・みちる・明示。
(豪) だけど信じられねえな、親父のやつ。
(みちる) ほんとね、さすがに自分の父親だと思うと恥ずかしくなっちゃった。
(明示) そうだろうか。
え?
ほんとにそうだろうか。
ほんとにおまえたちの思うように、信じられない、恥ずかしい父親だろうか。
お母さん、おまえたちのことを心配していた。
当然だ。唄はまだ小さいしな。
だけどな、お父さんのことをとても心配していたんだよ。
あんな親父じゃそうだよな。
とても愛されていたからな。
だから、壊れてしまうんじゃないかと。
お母さんいなくなって、おまえたちもショックだろう。辛いだろう。
しかし一方で、想像しなさい。
お父さんの立場になって、想像しなさい。
自分以外の、人の気持ちになれるかどうか。
想像力がなければ、人を思いやろうと思っても、その言葉は響かない。
想像してごらん。
もう長くないことを知りながら、夜ごとあの2階の部屋で、お母さんの側にいたお父さん。
朝が来る度に、目覚める度に、まだそこに命がある。
ホッとして、しかし確実にいなくなるのだと、また夜を迎えただろう。
そんなお父さんをおまえたち、最低の父親だと思うのか。
恥ずかしい男だと…
皆は葬儀会場に行ったが、幌は父を心配してまだ家に残っていた。
部屋で塞ぎこむ父に近寄ると、「これってなかなか音が出ないね」と父のトランペットを吹いてみる幌。
(幌) 僕ね、どうしても最後に、あの曲をお母さんに吹いてあげたいんだ。
ほら、うちでカラオケやった時に、お母さんが好きだった歌。
みんなが歌った後に、一曲だけよって、恥ずかしそうに歌ったの。
僕、あれ歌ってるお母さんの顔が、一番好きだったんだ。
そのことを思い出した徹生は、顔をくしゃくしゃにして涙を流す。
幌は懸命にトランペットを吹くが、コツがわからないので音すら出ない。
たまりかねた徹生が「そうじゃねえよ、俺に貸してみろ」と言って…
病院。インターンの淳一(小栗旬)と瀬戸(田中幸太朗)が歩きながら話している。
「真柴みちると付き合い始めたんだ」と瀬戸に報告する淳一。
「だけどおまえには婚約者がいる」と返す瀬戸。
みちるには秘密にしていたが、淳一には父が決めた婚約者がいた。しかし淳一が本当に好きなのはみちるだった。
「これから彼女を支えていきたいんだ」と淳一。
瀬戸も「そうしてやれ」と言うが…。
葬儀が始まり、芳夫(高橋克実)、篤(浅野和之)ら近所の家庭と、 夕子(桜井幸子)や竜一(萩原聖人)らも出席して由美と最後のお別れをする。
会場からはすすり泣く声が後を絶たなかった。
それぞれが献花し終わった時、幌と徹生が現れる。徹生は由美の好きだった「愛の讃歌」をトランペットで吹きながら、最後のお別れを。幌は母に献花をするが涙は流さなかった。
曲を吹き終えると徹生が話し始める。
(徹生) みんな、すまなかった。
みちる、豪、みっともねえ親父で悪かったな。
ちっと、なんていうかちっと…
「お母さん見てあげて」とみちる。
徹生は由美の遺体に近寄ると、妻に話しかけるように話し始める。
(徹生) …俺はマジで、父親なんて言えねえんだよ。
母さんがみちるを妊娠したって言った時、俺は最初ダメだって言ったんだ。
ガキなんか堕ろせって言ったんだ。
東京で、うだつの上がらないバンドやってて、いつまでも青春気取りで。
だから、結婚なんかするつもりなかったんだ。
金だってねえし、第一こんな世の中だ。
ガキが生まれたって、どんなガキになるかわかんねえ。
それが、あれよあれよと4人もできちまって。
うまく、こいつにそそのかされたって言うか。
だから、今おまえたちがここに存在してるのは、全部母さんのおかげだ。
俺なんか関係ねえ。
父親失格だと何とでも思ってくれてかまわねえ。
でもおまえたちの母さんは、俺みたいなろくでなしな男と一緒になったんだ。
もっと他に、いい男たくさんつかまえられただろうに。
いつもニコニコ、ニコニコ笑って、貧乏暮らしなのに、幸せだって。
嘘でもニコニコ、ニコニコ笑って…。
(みちる) 嘘じゃないよ。お母さんは嘘なんかつかないから。
見てくれのいい女はたくさんいるかもしれねえ。
だけど、母さんみたいに素晴らしい女は、一万人に一人だ。
俺は分不相応に、そんな女を手に入れちまった。
だから苦しい…
代わりなんて、永遠に見つけられねえからな…
泣き崩れる徹生。
(豪) あんたは親父失格なんかじゃないよ。
下品でどうしようもなくたっていいさ。
俺たちが、俺たちが愛してくれた母さんを、こんなに愛してくれたんだから。
(みちる) そうよ、お父さん。
私だって、いつか旦那さんに言われたいもん。
1万人に1人の女だって。こんな大勢の中で。
(徹生) 豪、みちる…
(幌) 僕、お父さん好きだよ。
(唄) 唄もお父さん大好き。
(徹生) 唄、幌…
子供たちに支えられて生きる気力を取り戻した徹生。
「おまえが命を吹き込んだ子供たちを、俺が立派に育ててみせるからな」と由美に最後の言葉をかける…。
一方、幌は母の死に際しても涙を流さなかった自分に再び悩んでいた。幌は唄を連れて祖父の天文台を訪れる。
夜になり迎えに来たみちるに、明示が声をかける。
(明示) これから大変かもしれないが…
(みちる) 目指せ! 一万人に一人
あはは、素質はある
でしょ、いいコーチが側にいるし
みちるは天文室へ。幌は星を見ながら姉に悩みを話す。
(幌) 亡くなった人はね、みんな星になるんだって、おじいちゃんが
(みちる) それはね
だから、お母さんもなるんだよね
でもいつなるのかとかは…
きっともうすぐだよ
幌、だけどお姉ちゃん、昨日は関心しちゃったな
お父さんのこと連れてきてくれたでしょう
幌は本当に人の気持ちがわかる子なんだなって
お姉ちゃん
ん?
僕ね、やっぱり涙が出なかったんだ
お母さんが死んじゃったのに、やっぱり涙が出なかった
気にすることないよ
でもね、一生泣かない人って、いないと思うの
うん、きっとそうだね
だから僕もいつか、涙をこぼすと思う
でもさ、なんだろ
お母さんが死んじゃうよりも、悲しいことって…
幌…
それを考えると、ちょっと怖い気持ちになるんだ
そんなこと考えたらダメだよ
でもお母さんの星が、いつも見えたら安心なのに
(幌) 僕は本当に、世界を救えるのでしょうか?
もしかしてその世界は、本当に救った方がいい世界なのでしょうか?
教えてください、お母さん
僕は虹色の戦士をあと二人、探した方がいいのでしょうか?
母を探すように望遠鏡で夜空を見ていた幌は、「見えた、お母さんだ」と。
望遠鏡のレンズからは、光がバトン状になって輝いていた。
みちるがそっとバトンを受け取ると、安心したように光は消えた…。
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