片山恭一氏の小説について
WORKS OF "KYOUICHI KATAYAMA".
Profile - 片山恭一プロフィール
片山恭一(かたやま・きょういち)。作家・小説家。
1959年愛媛県生まれ。福岡県在住。
九州大学農学部卒。同大大学院博士課程(農業経済学)中退。
1986年「気配」で『文學界』新人賞を受賞。
その後、不遇時代を経て1995年「きみの知らないところで世界は動く」で単行本デビュー。
2001年刊の「世界の中心で、愛をさけぶ」が2003年に大ブレイクし、300万部突破中。
詳しい経歴などは
↓こちらを参照。
Works - 片山恭一さんの著作
Recommend - 主観的なおすすめ
このページを見る人(片山恭一さんに興味がある人)は
「世界の中心で―」を読んだ人が多いと思いますが、
それと似たテイストの青春ラブストーリーは
・
「満月の夜、モビイ・ディックが」(↓)
・「ジョン・レノンを信じるな」(↓)
・「きみの知らないところで世界は動く」(↓)
の3作なので、個人的にはこのどれかをおすすめします。私的には「世界の中心で―」と同じぐらい好きな3作です。
Data & Review - 作品情報と感想
きみの知らないところで世界は動く
[1995/01 新潮社 286P
\1835] (
※絶版)
ISBN 4-10-402901-7
=概要=
少年少女最後の時代、ぼくとカヲルとジーコの三人をめぐる奇妙な「恋愛」模様。新鋭が描く青春長編。
(「BOOK」データベースより)
=備考=
片山恭一単行本デビュー作。
絶版でしたが2003年にポプラ社より
再刊。(
↓こちら)
ジョン・レノンを信じるな (
→Amazon.co.jp)
[1997/06 角川書店 168P
\1680]
ISBN 4-04-873035-5
-PickUp-
「あなたの歌には、聴き手一人一人に自分のことをうたってくれていると思わせる魔法がひそんでいるんです」
――不健康なことだ。一人一人が自分自身のリアリティのなかに降りていくべきだ。
(p.61)
=概要=
中学時代からの恋人と別れ、自らの存在根拠を失ったぼくが夢の中で出会ったジョンとの会話を通して、確かな場所を求めて彷徨いつづける…。変わりたい、けっして変わらない自分へ…魂との邂逅の物語。
=帯の紹介文=
ぼくは「ライ麦畑のつかまえ役」になどなろうとは思わない
ぼくがつかまえたいのは自分自身だ
――深い孤独をさまよう青春小説
=個人的感想=
「ジョン・レノンを信じるな」というタイトルがドキュメント風ですが、青春ラブストーリーの要素もあります。
この物語には2つの大きな柱があって、ひとつは銃弾に倒れたジョン・レノンについて。ファンが一人のヒーローを崇拝するとはどういうことか。レノンを撃った犯人の真意とは何か。
もうひとつは、大学院生である「ぼく」の恋愛と、恋人を失った喪失感について。
人間はヒーローや恋人に依存しやすいものですが、一方でどうやって現実(リアリティ)に向き合っていくかがテーマになっています。
=個人的評価=
★★★★★
*文庫化(2004/12)
上記の「ジョン・レノンを信じるな」が2004年12月に文庫化されています。
ジョン・レノンを信じるな(文庫版)
片山恭一 (著)
小学館文庫
\500
(
→Amazon.co.jp)
DNAに負けない心 (
→Amazon.co.jp)
[2000/10 新潮OH!文庫 199P
\490] (
※絶版)
ISBN 4-10-290027-6
-PickUp-
清らかな高校生の恋愛を描いた私のような珠玉の作品は、「この不景気に高校生の恋愛ものなんて誰も読みませんよ」という冷たい編集者のコメントとともに突き返されてくる。心外である。「ぐれてやる」と思う――。
(p.120)
=概要=
科学や貨幣は私たちに何をもたらすの? 世界を席巻する市民主義にはだれも反論できないの? 合理化されたシステムに負けずに、ちゃんと考えてみようよ。
(背表紙の紹介文より)
=個人的感想=
思想・評論書。テーマは「教育」「市民社会」「テクノロジー」の三本立て。
「世界の中心で―」大ヒット以前に書かれたもので、片山さんが売れない小説家として苦労してきたことも色々とわかります。
「ベストセラー本は内容よりもベストセラーという記号性によって欲望が喚起されているだけ」という皮肉も語っていたりして、その後の著者の運命を考えると面白い。
そういう軽い話題を除けば硬い内容なので読みにくかったです。
=個人的評価=
★★
=備考=
絶版でしたが2004年に光文社より「考える元気」と改題して
再刊。(
↓こちら)
世界の中心で、愛をさけぶ (
→Amazon.co.jp)
[2001/04 小学館
\1470]
ISBN 4-09-386072-6
-PickUp-
好きな人を亡くすことは、なぜ辛いのだろうか。
それはすでにその人のことを好きになってしまったからではないかな。別れや不在そのものが悲しいのではない。その人に寄せる思いがすでにあるから、別れはいたましく、面影は懐かしく追い求められ…… (p.177)
=概要=
十数年前の田舎の高校生・サクとアキの純愛、そして喪失感を描く青春ラブストーリー。
2001年に刊行し2003年に大ブレイク。300万部を突破するベストセラーに。
=帯の紹介文=
泣きながら一気に読みました。
私もこれからこんな恋愛をしてみたいなって思いました。
柴崎コウさん (「ダ・ヴィンチ」02年4月号)
--
十数年前。高校時代。恋人の死。
「喪失感」から始まる魂の彷徨の物語。
=備考=
詳細は別ページをご覧ください。
=個人的評価=
★★★★★
満月の夜、モビイ・ディックが (
→Amazon.co.jp)
[2002/11 小学館
\1470]
ISBN 4-09-386114-5
-PickUp-
人が人を愛することができるのは、お互いが抱えている闇のせいだ。
僕たちは自分と同じものを相手のなかに見出し、その人に心を奪われる。
でも、その人のなかには、決して理解することも、手を触れることもできない領域が広がっている。
だからただ願ったり、祈ったりすることができるだけだ。(p.193)
=概要=
大学生の主人公・鯉沼、恋人・香澄、謎の友人・タケルの3人を軸に、
「自分の好きになった相手が、とりわけ抱えている闇が深く、
果てしない場合には愛し続けることができるだろうか」を主たるテーマに展開する青春恋愛小説。
(「MARC」データベースより)
=帯の紹介文=
それでも、わたしを待っていてくれますか?
わたしを受け入れてくれますか?
深く、静かに読む人の心に届いた『世界の中心で、愛をさけぶ』の著者が贈る最新恋愛小説
--
ときどき夢を見てるんじゃないかって思うことがある。
このうんざりするような現実が、本当は夢で、もうしばらくすると覚めるんじゃないかって。
でも夢から覚めたところに待っているのも、やっぱりうんざりするような現実なんだろうな。
=個人的感想=
鯉沼・香澄・タケルの三人の若者を軸にした、ロード・ムービー風の青春恋愛小説。
タイトルの「モビイ・ディック」とは、容易に理解できない「他人の心の暗闇」の象徴。
片山作品の中でも特に描写が美しく、幻想的で儚い。繊細で壊れてしまいそうな世界観。
個人的には「世界の中心で―」の次に好きです。
=個人的評価=
★★★★★
空のレンズ (
→Amazon.co.jp)
[2003/03 ポプラ社 256P
\1470]
ISBN 4-591-07660-1
-PickUp-
ある意見に反対の場合でも、口に出してちゃんと理由を言える人はほとんどいなくて、ただ「あの子は嫌い」ってなっちゃう。
そのうちみんな自分の意見を言うかわりに、なんでも「好き・嫌い」で表現するようになるんじゃないかな。そして嫌いなものは暴力で排除する。(p.21)
=概要=
インターネット上で出会った4人の少年少女たちが向かった世界はヴァーチャルなのか現実なのか…。謎のキーワードに導かれながら彷徨う彼らを次つぎと襲う奇妙な出来事。生と死のはざまに揺れる愛と再生の物語。(「MARC」データベースより)
=個人的感想=
デジタル感覚のファンタジー。「世界の中心で―」に代表される片山さんの恋愛小説とは大きく異なるので、新境地といえる作品。
=個人的評価=
★★★
きみの知らないところで世界は動く (
→Amazon.co.jp)
[2003/08 ポプラ社 311P
\1575]
ISBN 4-591-07797-7
=概要=
かつて誰にでもあった少年少女最後の時代。そんな日々を過ごす、ぼくとカヲルとジーコの3人の奇妙な恋愛模様を軸につづられる、読むたびに胸の熱くなる物語。95年新潮社刊に「デジタル・リマスター」を施し再刊。
(「MARC」データベースより)
=個人的感想=
中編小説が多い片山作品ですが、これは他のと比べると少し長いのでじっくりその世界を味わえます。
まさに「原点」と言える1970年代を舞台にした青春ラブストーリー。ジーコの存在がいい味を出している。
=個人的評価=
★★★★
もしも私が、そこにいるならば (
→Amazon.co.jp)
[2003/10 小学館 236P
\1365]
ISBN 4-09-386125-0
=概要=
一瞬のような一生。一生のような一瞬…。2001年刊「世界の中心で、愛をさけぶ」につながる3つの愛の物語。『パラダイスへの道』『文学界』掲載に加筆・訂正を加え単行本化。
(「MARC」データベースより)
=個人的感想=
3つの短編を収めた短編集。青春小説とは一味違う「大人」の恋愛小説。
3つの短編のうち最初の作品は良かったが、「世界の中心で―」の次に読む作品としてはあまりお勧めできない気がする。片山ファン向け。
=個人的評価=
★★★
雨の日のイルカたちは (
→Amazon.co.jp)
[2004/04 文藝春秋 226P
\1300]
ISBN 4-16-322880-2
-PickUp-
人生というのは、本質的に人間を小馬鹿にしているようなところがあるな。
忙しがって、競い合って、慌しく生きて、わけもわからずに死んで一生を終わる。
いったい何のために、何をしていることになるのか。(p.137)
=帯の紹介文=
信じられるものを失ってしまった心。
私たちに再生の途はあるのだろうか。
突然死した最愛の夫には別に愛する人がいた――。
深い喪失感を抱えて生きる人たちを、祈りにも似た言葉で描く四篇の物語。
=個人的感想=
今までの青春恋愛小説とは一線を画す新境地。
「何も信じられない」現代人の虚無感を淡々と描き、その中にささやかな希望を見出そうとする。
絶望からの再生という点では「世界の中心で―」を初めとして、片山作品に共通すると言えるけど、
今作はそれを正面から描いた短編集。4つの短編のうち個人的には2・3作目のが良かった。
=個人的評価=
★★★★
考える元気 (
→Amazon.co.jp)
[2004/10 光文社 199P
\500]
ISBN 4334737684
=帯の紹介文=
「世界の中心で、愛をさけぶ」の出発点
この本があったから小説が書ける
=備考=
絶版になっていた2000年刊
「DNAに負けない心」の改題・再刊です。
作家デビューから「世界の中心で、愛をさけぶ」刊行まで (11/21up)
片山恭一さんは1986年(27歳の時)に『文學界』新人賞を受賞しますが、単行本デビューは遅くて1995年(36歳)の時です。
この間の不遇時代について
「きらら」創刊に寄せてに片山さんが書いていますので、興味のある方はまずそちらをご覧ください。
あと
雑誌『ダ・ヴィンチ』2003年10月号に片山さんの経歴やコメントなどが載っていたので、上のエッセイに載っていないことを中心に以下要約します。
・もともとは大学院で研究者を目指していたが、小説を書くことを優先して大学院は中退。
・結婚は早くて23歳の時。奥さんが働いていたので主夫として家事育児を担当。
・副業で塾の講師をしながら小説を書き続けた。
[片山恭一]
人の役に立つ論文よりも、自分が書きたいものを書きたいというのが作家を目指した動機でしたから、最初から専業作家は無理だと思っていました。
副業で塾の講師をしながら、作家としてはそこそこ収入があればと思っていたんですけど。
純文学、SF、ミステリーなど幅広いジャンルに挑戦して文芸誌に送り続けたが、まったく掲載されず、作家としては無収入。
こうなったら単行本化を狙うしかないと長編を書き下ろし、何作か持ち込んでやっとチャンスをつかんだのが、デビュー作
「きみの知らないところで世界は動く」(1995年刊)
それまでそういうものを書いてきたわけじゃなかったのに、10代の青春恋愛ものを書こうと思ったのは、
なんとか単行本を出したいと思った時にやっぱり自分の体験を書くのが一番書きやすいと思ったからなんです。
それでも原稿が編集者の手に渡ってから出版までに1年半を費し、第5稿まで手直しされた。
片山さんが当初つけたタイトルは「水晶の船」だったが、そんなタイトルでは埋もれてしまうという理由で担当編集者が「きみの知らないところで世界は動く」とした。
もともと僕はもっと観念的なものを書いていたんです。
でも”読みやすい文章で深いものを書いてほしい”と言われまして。
この時にずいぶん鍛えられた気がします。
そして出版。続けて1997年には
「ジョン・レノンを信じるな」を出すが、どちらも部数が伸びない。
それから3年間は単行本がまったく出せない苦境に陥り、一時は作家を諦めて就職も考えたとのこと。
背水の陣で書き下ろしたのが
「世界の中心で、愛をさけぶ」で、これも自ら出版社に持ち込んだ作品だった。片山氏3冊目の単行本として2001年に刊行。
2年前に出した時の初刷が8000部。3万部、5万部くらいまでは読んでくれた人が本当にいいと想ったのか口コミで伝わって、2000、3000と増刷がかかっていくという売れ方で、自分でも嬉しかったし、結構達成感があったんです。
でも10万部を超えたあたりから、逆にどうして読まれているのかわからなくなって、このところ1ヶ月に10万部づつ増刷がかかっている。
もうこうなると、自分の手を離れた現象になっているという感じが強いですね。
まだブームになる前、「世界の中心で―」を読んだ高校生の女の子からの
「この本を読むことによって、自分が生きている世界を美しいと感じるようになりました」という読書カードが印象に残っているという。
ああ、自分が伝えたかったことが結構まともに届くもんだなぁって。
僕らが”美しい”と感じるのはなぜかといえば、やはり人とのつながりがあるからだと思うんです。
(中略) 人が人を思う、そういう純粋でいいものがこの世界にはあって、自分もそういう世界の中に生きているんだと。
僕にとっても一番嬉しい読まれ方でした。
「世界の中心で―」を書いた時に、”もう同じフォーマットではこれ以上のものは書けんやろうな”と感じました。
書ききったというか、今後は自分と同じ世代を主人公にして、人生観だとか死生観といったより深いテーマを掘り下げていきたいと思っています。
『ダ・ヴィンチ』2003年10月号(p.34-35)より抜粋・引用
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