大晦日。
新年を迎える準備をする勇吉(寺尾聰)だが、先日皆空窯で見た拓郎のことがずっと気になっていた。
皆空窯に電話をしてみると、六介の妻・洋子が出るが、勇吉は何も聞きだせず「間違えました」と言って電話を切る。
大晦日も常連客で賑わう「森の時計」に、身なりのいい初老の男・中里(北島三郎)が訪れる。
男は窓から見える森の景色をいとおしそうに見つめていた。
さらに、勇吉の商社時代の同僚・河合が、妻と息子を連れて森の時計を訪れる。
休暇で富良野に旅行に来たのだ。
(1話で森の時計を訪れた)水谷(時任三郎)の妻(手塚理美)の葬儀が先日行われたと河合は勇吉に伝える。
そんな頃、ひとりの老婆・敏子(佐々木すみ江)が富良野駅に降り立つ。
富良野に住む息子に呼ばれ、50年ぶりに富良野を訪れたのだ。
敏子は「森の時計」の写真を片手に、交番で場所を尋ねる。息子がそこのオーナーだという。
一方、勇吉は店をミミたちに任せて「北時計」へ。
北時計で使っているコーヒーカップは朋子から還暦祝いでプレゼントされたものと似ていた。窯元を尋ねる勇吉。
朋子が皆空窯だと答えると、勇吉はその皆空窯で拓郎を見たと告げる。
(勇吉) あれはやっぱり拓郎なんですね。
皆空窯に紹介したのはママですか。
(朋子) 悪かったわね、余計なことして。
そうですか。
私、タクのことが可哀想で。メグの子だし。
父親のあんたからはあんな風に拒否されて、それでもあんたが心配で少しでも側に居たいってあの子がさ。
皆空窯であいつは何をしてるんですか。
陶芸の修行よ、1年以上ももう真面目にやってる。
天野六介ってあそこの先生、厳しくて有名な人だけどね、タクちゃんのことは認めてるみたいよ。
親身に面倒見てくれてる。
そんな近くに1年も居るなら、あいつはどうして私に連絡をしてこないんでしょう。
あんたが冷たくしてるからじゃないの?
アズちゃんを拓郎に紹介したのもママですか。
違います、それは違いますよ。私だって腰抜かしそうになったんだから。
あの二人いつの間にか知り合ってたの。
どういう風に知り合ったんでしょうか。
そんなこと知りませんよ。
あいつから接近したんでしょうか。
さぁ。
アズちゃんが私のところにいるのを知って、それで接近したんでしょうか。
あいつは私の息子だってこと伏せて、騙す形で彼女を引っ掛けたんでしょうか。
あいつの接近は意図的だったんでしょうか。
勇さん、怒るよ?
あんたいつからそんな風に悪意を持って人を見るようになったの。
まして自分の息子じゃないの。
引っ掛けただなんてそんな汚い言葉、息子によく言えるわね。
あんたがそんな風な目で見てるから、いつまで経っても親子の仲が修復できないのよ。
それはね、あなたの責任ですよ。
タクは確かにメグを死なせたけど、だからって、タクそんなに悪い子?
あなたにとって、あの子は永遠にそんな風に見られるの?
それじゃあんまりよ。
あんたタクのこと、今まで一度でも、ちゃんと見てやった?
見てやった?
見てあげたことないじゃない。
厳しい口調でそう諭された勇吉は、「おっしゃるとおりです」とうなだれ、拓郎への態度を見つめなおしていた。
勇吉が森の時計に戻ると、表で客の中里(北島三郎)が薪割りをしていた。
「好きでしているから気にしないでください」と言って男は薪割りを楽しむ。
老婆・敏子が森の時計に辿り着く。敏子はこの店のオーナーである息子に会わせて欲しいと言うが、勇吉は誰のことか分からず困惑。
息子からの手紙に入っていたという写真には、確かに森の時計と中年の男が写っていた。だがそれはミミが頼まれて撮影したもので、かつて訪れた客のひとりだったのだ。
常連客の高松によると、敏子の息子は別のところで喫茶店を始めたが、経営が上手くいかず、すぐに潰れたという。
敏子は手紙の差出人のところに書かれていたアパートを尋ねることに。
だが玄関を叩いても反応はなく、ポストには数日分の新聞が詰まっていた…。
クリスマス以来拓郎と会ってない梓(長澤まさみ)は、拓郎に電話をかけるものの、ずっと繋がらないでいた。
心配した梓はメールを送る。
一方、拓郎(二宮和也)は六介から新人陶芸家の登竜門となるコンテストの申込書をもらう。
陶芸家として自立すれば父の前にも出れると考えた拓郎は、コンテストに応募することに。
しばらくその制作に打ち込むため、「当分逢わない。メールしないでくれ」と梓にメールする。
それを見た梓はすぐに電話するが、拓郎は携帯の電源を切ってしまう。
夜の森の時計。中里(北島三郎)はまだ店にいて、ぼんやりとくつろいでいた。
そこに常連客で刑事の風間が、老婆・敏子を連れてやって来る。
敏子の息子は最近ペンションを改装して喫茶店にしようとしていたところ、資金が尽きて工事はストップ。
息子は夜逃げし、さらにクリスマスの夜に万引きで捕まったという。
だが風間はそのことを敏子に伝えることができなかった。
客同士の中里と敏子は、薪ストーブの前で言葉を交わす。
(敏子) 桜の薪ですね。
(中里) はい。
いい匂い、懐かしいわ。
昔はうちに誰かが来ると、桜の木をくべて、もてなしたもんです。
あの頃のちょっとした贅沢でした。
土地の方ですか?
あぁ、25年前までは富良野にいました。
私も二十歳まで。
離農したんです。いや、離農というか、ほとんど夜逃げでした。
似たようなもんです。
ここらの唐松の木ですが、昭和30年代に、私の父親が植えました。
私も学校から帰ると、よく親父の手伝いをしたもんです。
この土地、昔、うちの土地でした。
昔は冬の山仕事の時期になると、ソリを引く馬の鈴の音が、1日中聞こえてましたね。
貧しくて何もなかったけど、あの頃の暮らしが一番良かった…
富良野で過ごしたかつての日々を懐かしむ二人。
中里は森の時計を後にするが、敏子は「息子が駅で待ってるかもしれない」と言い、駅へと向かうのだった…。
閉店後、元同僚の河合が再び森の時計を訪れる。
もう一度会社に戻らないかと河合は誘うが、もうあの世界に戻る気はないと勇吉。
(勇吉) 私にもこれで仕事があるんですよ。
(河合) コーヒー屋は誰かに任せればいい。オーナーの地位だけ確保しといて。
コーヒー屋の仕事だが、他にも仕事があるんですよ。
そうじゃないかと思ってた。おまえがコーヒー屋で納まるはずがない。
何やってるんだ?
振り返るという仕事をね。
今朝、君のご家族にお会いして、失礼だが色んな感想を持ったよ。
そうだな、昔の自分を見ている気がした。
たまの休暇を免罪符みたいに、家族サービスに旅行に出て、女房や息子の喜ぶ顔を見て、彼らが本当に喜んでいるのかどうかなんて、そんなことまで知ろうともしなかった。
今日、私はある人に、お前は息子を本当に一度でも、ちゃんと見てやったことがあるのかって、そう言われました。
何も答えることができませんでした。
私がこれからやろうとしている仕事は、世界を相手にすることじゃなくて、小さな周りを見つめる、そういう仕事なんです。
家族であるとか、友人であるとか、ごくごく小さな自分の周りをね。
大変なんですよ、この仕事は。
だからあの世界に戻る気は、もうないんです。
河合が帰った後、めぐみの幻想が現れる。
(めぐみ) 大晦日ね。
寂しくない? 紅白も何にもない大晦日。
いや…
なぁメグ、あれはやっぱり拓郎だった。
あいつはここから1時間のところで、俺を見ながらそっと暮らしてた。
朋子さんに言われたよ。
あんた、息子を本当に見てやったことがあるのかって。
俺は何も答えられなかった。
まったくその通りだって、そう思った。
俺、おまえのことは、ちゃんと見てたかな。
おまえをきちんと見てたかな…。
見てたわ…あなた私を、ちゃんと見てたわ。
そうか…
それじゃあ俺が見てなかったのは、拓郎のことだけ。
そうだったんだな…
きっとね…
その後、勇吉は神社に行き初詣を済ませると、皆空窯へと向かう。
外から陶芸部屋を見ると、中には拓郎がいて熱心に作業をしていた。
息子の成長を感慨深く見つめる勇吉。
そして皆空窯の入り口にあるオブジェに、神社で買ったお守りをそっと残す…。
第7話終わり。
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