今夜はクリスマス・イヴ。
勇吉(寺尾聰)や梓(長澤まさみ)たちは、「森の時計」の店外にクリスマスの飾り付けをしていた。
そこにコーラスグループの五木(木村多江)たちがやってくる。
今夜コーラス隊で母子家庭の家を周り、クリスマスプレゼントを届ける予定だったが、サンタをする予定の男が風邪で寝込んでしまい、代わりのサンタを勇吉にやって欲しいと言う。だが勇吉は「やだよ」と言って消極的な態度を見せる。
勇吉を諦め、店にいた他の常連客にサンタ役を頼む五木たち。
そこに常連客の佐久間が訪れ、じゃんけんで負けたことでサンタをすることに。
そんな話で盛り上がっていると、未亡人の美可子(清水美砂)が森の時計を訪れる。
美可子がアクセサリーを作っていると知った梓が呼んだのだ。
美可子が自作したペンダントを物色し、雪の結晶のペンダントを2つ買った梓。
そんな頃、一人の男が森の時計を訪れる。
リリがオーダーを取りに行くと「内村の奥さんだね」と声をかけられる。リリの別居中の夫の知り合いらしい。
男の話すところによると、リリの夫がある有力者の妻と不倫関係になったという。
「先生にバレたら夫の命はない」と物騒なことを話す男。
リリは夫と3年間会ってないらしく、自分には関係ないと話すが、それでも男は解決するためには金が必要だとリリに迫る。
その時店にいた常連客の刑事・風間が警察手帳を片手に声をかけ、男を店外に連れ出す。
一応の解決を見たが、リリは不安そうに脅えていた…。
夕方になり、周りが暗くなり始めた。
勇吉は店外に出て、クリスマス用に準備したランプに火を灯す。
そして10数年前、拓郎がまだ幼かった頃のクリスマスの日を思い出していた…。
仕事で帰りが遅くなり、拓郎と一緒にクリスマスパーティーを楽しむことができなかった勇吉。
「今日ぐらい早く帰ってきてくれてもいいのに」とめぐみも責める。
その頃勇吉はロンドンへの転勤が決まり、ひとり単身赴任で行くことになった。
そうして少しづつ離れ離れになっていった勇吉と拓郎…。
森の時計の店内で、聖歌隊が最後のコーラスの練習をしていた。
カウンターでくつろいでいた勇吉に梓が話を切り出す。
(梓) マスター
(勇吉) ん?
今夜は何をなさるんですか?
今夜か、何をなさるのかな
CD聞いて、ちょっとワイン飲んで、それから風呂入って、眠るのかな
私に…プレゼントさせてください
何をくれるんだい
あげるんじゃなくて、紹介したい人がいるんです
きっと…たぶんきっと、気に入ってもらえると思います
どういう人だい
若い人かい
若いです
男性かね、女性かね
男性です
それはアズちゃんの大事な人かね
…はい
それは…嬉しいね
まだお姉ちゃんも知らないんです
ますます光栄だね
ちょっと遠いです、1時間ぐらい
かまいませんか?
かまいませんよ
それは何か、わくわくするね
梓の恋人だと思った勇吉は、父親のように梓の幸せを喜ぶ…
その後、ペアルックの父親とその息子が森の時計を訪れる。
ミルで豆を挽く体験を珍しがって楽しむ親子。
(ペアルックの父) 森の時計という名前は、いいですね。
(勇吉) ありがとうございます。女房の好きな言葉でした。
森の時計はゆっくり時を刻む。
だが人の時計はどんどん早くなる、と続くんでしたな。
よくご存知で
実は私、時計メーカーのシスコにいる者なんですが、以前ある人から頼まれて、森の時計を作りかけたことがあるんです。
つまり12時間で一回転する時計じゃなく、もっともっとゆっくり、たとえば1年で一回転する柱時計ができないかって言われましてね。
そんなの、うちの技術陣なら簡単に作れますって引き受けたんですが、これが実際やってみたら、意外やできない。
0コンマ何秒、あるいはもっと細かく刻む時計を作れと言われるなら、技術陣はいくらでも考えられると言うんです。
ところが、もっと遅く、もっとゆっくり回る時計と言われると、どう考えてもできないって言うんですよ。
なぜなんですか?
なぜなんでしょうね。
人間はデジタル化することによって、速い方へは思考が回るけど、ゆっくりという方角へはもはや思考が回転しなくなってしまった、ということでしょうかね。
梓は仲の良いペアルックの親子を見て、何かを考えていた。
車内に行き、自分用にと美可子から買った雪の結晶のペンダントを、プレゼント用に包装し直す。
2つあるペンダントは勇吉と拓郎のプレゼントにし、親子で同じものを使ってもらおうと考えたのだ。
そんな頃、勇吉が寂しくしてないかと心配した朋子が、クリスマスケーキを持って森の時計を訪れる。
だが続けて未亡人の美可子も店を訪れ、手には朋子と同じクリスマスケーキが。
続けて、ミミとリリもマスターに内緒で作っていたクリスマスケーキを持ってくる…。
「森の時計」閉店後、梓は勇吉を車に乗せて美瑛へと向かう。
車内で梓が勇吉にプレゼントを手渡すと、中身はペンダントだった。
梓にせがまれてペンダントを身につける勇吉。
皆空窯に着いた。梓は「ここで待っていてください」と勇吉を車内に残し、拓郎の元へ。
拓郎(二宮和也)は梓の突然の訪問に驚くが、「メリークリスマス」と笑顔を見せる。
梓は拓郎に勇吉と同じ雪の結晶のペンダントをプレゼントする。さっそく身につける拓郎。
(梓) 本当はもうひとつプレゼントがあるの
(拓郎) なに?
紹介したい人がいるの
誰?
すぐそこに来てるの
車の中で待ってるの
誰…?
マスター
あなたのお父さん
喋ったのか…
まだ喋ってない
ならなんで連れて来た
仲直りして欲しいから
約束したはずだ、絶対言わないって!
だけど…
余計なことするな!
わかってる、だけど仲直りして欲しかったの
余計なことガキがするんじゃねぇ!
待って
わかったようなことすんじゃねぇ…
陶芸部屋から出て行く拓郎。
待って!
タクちゃん!
車から降りてぼんやりしていた勇吉が、梓の叫び声に気づく。
待ってタクちゃん!
勇吉が声のする方に歩いていくと、拓郎が逃げるように森の中へと走って行く後ろ姿が見えた。
タクちゃん!
梓が引き合わせようとしていたのは拓郎だった…。
そのことに気づいた勇吉は車内にもどり、震える手でタバコに火をつける。
まだ頭の整理がついていなかった。
そこに梓が戻ってくる。
ごめんなさい、忙しくって、彼今晩ダメなの
そう、それは残念だな
梓は勇吉が拓郎の姿を目撃したことに気づいていなかった。
富良野へと戻る二人。
なかば放心状態のまま、森の時計に帰ってきた勇吉。
そんな勇吉に幻想のめぐみが声をかける。
(めぐみ) いかがでしたか、今年のクリスマスは
一人で暮らしてるとモテていいですね
あら、そのペンダントどうしたの
(勇吉) もらったんだ
誰に?
アズちゃんに
未亡人からじゃないんですか
いや、作ったのは未亡人だが
…メグ、俺にも事情がよく分からないんだ
今夜、拓郎に似た若者を見たんだ
いや、拓郎があんなところにいるわけがないんだ
でも…後ろ姿がアイツに似てた
それにアズちゃんが呼んだの、確かに聞いたんだ
タクちゃんって
その若者は、アズちゃんの付き合ってる男らしくて、紹介するって連れてかれて
でもそんなこと、あると思うか?
美瑛の山の中に、拓郎がいるなんて…
走り去っていく拓郎の後ろ姿を、勇吉は何度も思い返していた…
第6話終わり。
[ ←5話を見る / 一覧にもどる / 7話を見る→ ]