店の売り上げの一部をポケットに入れたことで勇吉(寺尾聰)と口論になり、「今日で辞めます」と言って森の時計を飛び出した梓(長澤まさみ)。
その後、勇吉の元に姉のリリから連絡が入り、まだ家に帰ってこないという。
その日の深夜。
勇吉に呼ばれて朋子が森の時計を訪れてくる。
梓に言い過ぎたのではないか…と心配する勇吉に対し、そのうち帰ってくると言って安心させる朋子。
音成の自殺についての話になると、音成から借金を頼まれた朋子は300万貸したと言う。
返してもらおうとは思わなかったとサバサバと話す朋子。
一方、勇吉はやはり梓が気になっているらしく、梓のリストカット癖について心配する。
朋子とそんな話をしているとリリから電話が入り、梓が帰ってきたという。ホッとする勇吉…。
「森の時計」を飛び出して拓郎(二宮和也)の元を訪れた際、「あの人は俺の親父だ…」と唐突に言われた梓は、そのことの真相を拓郎に問い詰めていた。
(梓) どうして隠してたの
(拓郎) あの人は俺がここに居ることを知らない
ここにいることは言わないでくれ
約束してくれ
どうして知られちゃいけないの
約束してくれ
わかった…約束する
父さんには絶縁されてんだ
何があったの
母さんを……俺は殺しちまった
3年前、俺は車を運転していて
母さんは俺にあることを問い詰めていた
俺はハンドルを取り損ねて、母さんはそのまま死んじまった
その頃父さんは外国にいた
帰ってきた父さんは、俺とほとんど口を利かなくなった
父さんは母さんをすごく愛してた
父さんが俺に口を利かない気持ち、俺はすごく理解できるんだ…
涙を流しながら過去を告白した拓郎。
家に帰ってからも、梓は拓郎の言葉に思いを巡らせていた…
翌朝。「森の時計」はいつもの賑わいを見せていた。
常連客の一人が訪れ、音成の通夜が今夜6時から始まると勇吉に伝える。
その頃、ある中年の男(小日向文世)が「森の時計」を訪れるが、入り口付近で滑って転倒。頭を強く打ってしまう。
そのショックで記憶が飛んでしまった男は、自分が何者で、どこから何をしに「森の時計」にやって来たのか分からなくなってしまう。
手がかりはポケットに入っていた消費者金融のティッシュと、K.Tとイニシャルが彫られたライターだけだった。
一方、拓郎と勇吉の関係が気になっていた梓は、北時計を訪れて朋子に話を聞く。
朋子は拓郎と仲良くしている女性が梓であることを初めて知る。
さらに梓が拓郎と勇吉の間に生じた亀裂について話すと、拓郎が美瑛にいることはマスターに話してはいけないと釘を刺される。
(梓) マスターはどうしてタクちゃんのことを、いつまでも許せないでいるんですか
お母さんをタクちゃんが死なせたからってことはわかります
だけどタクちゃんは息子なんでしょう
マスターの、自分の息子でしょう
(朋子) メグは、タクの亡くなったお母さんのことだけどね
もともと富良野の出身でね
小学校時代から、ずっと私の親友だったの
富良野と東京、離れてたけどしょっちゅう電話で話をしてたんだ
勇さん、マスターが外国にずっといて
タクの面倒全然見れなかったから、メグは全部ひとりでやったんだ
タクが一時期どんどんひん曲がって、暴走族に入って暴れたりしてた頃ね
そのことをメグは勇さんに伏せて、自分ひとりで背負ってきたの
そのこと勇さんが知ったのは、メグが死んでからの話だと思うよ
自分が全然知らなかったことを、メグが一人で背負ってきたことに、勇さんショック受けたんだろうね
その分、タクを許せないんだと思うな
わかる? 勇さんのその気持ちも
……
男親の気持ちを分かれって言っても、若い子には無理かもしれないけどね
勇さんはメグのこともタクのことも、家族を信じきっていたからね
信じて仕事に打ち込んできたわけだから
だから息子に裏切られたって気持ちは、強くショックとして残ったんだろうね
梓は何も言い返すことができなかった…。
夜。音成の通夜が営まれていた。
勇吉ら常連客も出席して手を合わせる。
残された音成の妻は無念そうな表情を滲ませていた。
森の時計。記憶喪失の男は夜になっても記憶が戻らず店内に留まっていた。
だが常連客が音成の話をしていたことをきかっけに、徐々に記憶を取り戻す。
男は芦別からやって来たサラ金の回収業者だった。
長年勤めていた会社をリストラされ、先月からこの仕事を始めたという。取り立ては自分には上手くできないと、人の良さそうな顔で話す。
(男) 昨日、この町の音成電気さんに取り立てに来たんですが
来てみたら、ご主人が自殺しておられて
ショックでした
2、3日前も一度来ていて、音成さんに酷いこと言いました
本当に酷いこと言いました
でも泣かれてしまって、結局取れず、帰って社長に怒鳴られました
それで昨日来たら…死なれていました…
私、今日、お通夜にだけでも出るつもりで、こうして富良野まで来たんです
話を聞いていたミミから「お通夜ならとっくに始まっていますよ」と聞くと、男は立ち上がって会場へと走る。
通夜への出席を終えた勇吉や常連客らが「森の時計」に集まっていた。
音成があっけなく逝ってしまったことに寂しさを感じる面々。
つい数日前には、未亡人(清水美砂)と勇吉を結婚させたいと楽しそうに話していたという。
「あの時10万でも貸してやれば良かった」などと、それぞれが後悔を募らせるが、勇吉は一人、静かに何かを考えていた。
そんな頃、富良野の町をひとり歩いていた梓の携帯が鳴る。拓郎からだった。
あれから親父には会ったのか
会ってない
本気でお店辞めるのか
わかんない
アズちゃん
親父が君に言ったこと、わかってやってくれ
親父は君を傷つけるために言ったわけじゃないと思う
そのことが言いたくてわざわざ電話くれたの?
タクちゃんどうしてそんなにお父さんにそんなに優しくなれるの
なのにどうして会おうとしないの
こんな近くにいること、なぜマスターに隠そうとするの
ねぇタクちゃん、聞いてる?
……
今夜は冷えるから、暖かくして寝ろ
おやすみ…
さらに夜がふけた頃、「森の時計」に音成の妻・春子が訪れる。
生前主人がお世話になったと謝辞を述べた後、春子は分厚い香典袋を取り出し、これは受け取れないと言って差し出す。
勇吉は香典に多額の金を包んでいたのだ…。
(春子) 主人が生前、皆様に失礼なお願いをして歩いていたことは、薄々察しておりました
でももう音成電気は見事に倒産いたしましたので、これ以上、皆様のお情けにすがる必要もなくなりました
お気持ちだけ…お気持ちだけありがたく頂戴致します…
そう言って香典袋を返し、森の時計を後にする春子…
勇吉がカウンターでぼんやりしていると、めぐみが現れる。
(めぐみ) いくら包んだの
ねぇ、いくら包んだの
借金の申し込み、ビシッと断ったから、寝覚めが悪くていっぱい包んだの
ねぇ教えてよ、いくら包んだの
(勇吉) うるさいなぁ
ケチ
あなたって表面冷たいフリするくせに、内心は冷たくなりきれない人なのね
アズちゃんに対する態度も同じ
当ててみよっか
何を
あなたが今朝から何考えてたか
あなた、アズちゃんが店に出ないから、寂しくて寂しくてしょうがなかった
昨日やっぱり少し言い過ぎたか、こっちから出かけて謝ってやるべきか
1日中そんなこと、イジイジ考えてた
当たった?
おまえは昔から、いつでも俺の心を見抜くのが得意だったよ
俺はいつでもお前といると、心の中を見透かされてるような気がした
だけどね、俺はもともと、お前が言うような冷たい人間でも何でもないんだ
そう見えるとしたら…
そう話していると外で物音が聞こえる。
勇吉が表に出てみると、梓が雪かきをしていた。
今夜はまた積もりそうです
……
マスター、昨日はごめんなさい
私もう一度、この店に置いてもらえませんか
勇吉はうっすらと微笑むと、歩み寄って一緒に雪かきを手伝うのだった…。
第5話終わり。
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