富良野に大雪が降った。
「森の時計」の水道管が凍結し、水道工事業者の立石が修理しにやってくる。
今回の大雪が根雪――降り積もった雪が溶けずに残り、以後の積雪の下積みとなる――だと勇吉(寺尾聰)は言う。
作業を終えた立石は、娘と結婚予定の自分より年上の会社社長が、結納金に1000万円払うと言われたことを話す。
だが娘を1000万円で売り渡すような気がして、その申し出を断ったという。
「森の時計」に観光客らしい若いカップルが訪れる。
ベッタリと寄り添ったまま外の景色を見つめている二人を、従業員のミミは不審そうに見つめる。
常連客の佐久間が「森の時計」を訪れ、同じく常連客の音成(布施博)が経営する電気店が倒産危機という話を勇吉に聞かせる。
音成は「森の時計」で知り合った他の常連客にも借金を申し込んでいるという。
それほどに切羽詰った状態らしかった。勇吉は黙って何かを考えていた…。
カップルは依然として寄り添ったまま、コーヒーにも手を付けていない様子。
同じ姿勢のまますでに6時間が経過していた。
異常だと感じた梓(長澤まさみ)たち従業員は「死んでるんじゃない?」と大騒ぎし、ついに警察が呼ばれること。
常連客でもある警察官の風間が忍び足で客席へと近づくと、
カップルは突然、何事もなかったように「行こうか」と立ち上がる。
ただまどろんでいただけらしく、従業員たちの杞憂に終わった…。
そんな頃、音成(布施博)が深刻な顔つきで「森の時計」を訪れる。
音成はコーヒーを飲む間もなく、勇吉に借金を申し出るが…。
(勇吉) それは…できません。
申し訳ないけど、私にはできません。
(音成) 200万が無理なら、150万でもいいんだ。
それが駄目なら100万でもいい。
25日、必ず返します。
そうしないとお店取られちまうんだ。
お願いします…。
私には、無理です。
今日の6時が期限なんだ。
6時になると業者が来て、店の商品引き上げるんです。
それをやられたら、もうおしまいだ。
残念ながら…できません。
…冷たいんですね。
音成さん、私は30年商社にいました。
金の怖さは痛いほど知っています。
25日に返すとおっしゃる。
でもそういうことは、なかなか予定通りにはいきません。
予定は必ず狂うもんです。
音成さん、あなた、私にとっていい友人です。
お客さんというより、友人と思ってます。
私だけじゃありません。ここで合う人たちはみんな友人です。
常連客の人たちはみんな、音成さんのこと、友達だと思っています。
友達に、お金の貸し借りを作っちゃいけません。
利害関係が生じたら、友情なんて簡単に崩れてしまいます。
友人は、大切なもんです。
色んな形で助けてくれます。
でも、金のことだけは言い出しちゃだめです。
とにかく、今日の話はなかったことにしてください。
そう諭された音成は、何かを観念した様子でコーヒーを注文し、ゆっくりとミルを回す…
二人の会話を陰で聞いていた梓。
就業時間を終え富良野の町を歩いていると、音成電気店では商品の回収作業が始まっていた。
音成の妻が店の奥でうなだれているのが見える。
借金の申し出を断った、勇吉の非情な仕打ちに疑問を抱く梓。
夜。「森の時計」店内の一角で、聖歌隊によるコーラスの練習が行われていた。
勇吉が使用を許可したのだ。「きよしこの夜」が歌われていた。
音成はまだ店内に残っていた。
(音成) 昔、高校にコーラス部があって、その中に一人、かわいい子がいましてね。
仲間が強引にコネつけてくれて、やっと付き合い始めました。
最初は嫌われてたみたいだったけど、6年間ねばって、相手もやっとその気になってくれて…それが今の女房です。
幸せにしてやるなんて、大見栄きっておいて…。
奥さん、心配してませんか。連絡ぐらいしてあげたらどうです。
お店、今大変なことになってるんでしょう。
まずいんじゃないんですか、あなた一人が逃げてたら…。
奥さん、困ってらっしゃるんじゃないですか。
どんな顔して、女房に会うんですか。
どんな顔して会ったらいいんですか…。
思わず泣き崩れる音成。
夜の皆空窯。
拓郎の部屋に梓が訪れていることを知った六介は、二人の関係を心配する。
どうやら梓は毎晩のように会いに来ているらしかった。
六介の妻は、何かあったら梓の親御さんに迷惑だから、朋子さんに伝えた方がいいんじゃない?と。
翌日、連絡を受けた朋子が拓郎の元を訪れる。
修行中の身なんだから、修行に専念した方がいいんじゃない?と言い、女の子を夜中に連れ込むのも非常識だと言う。
だが梓は勝手に来ているらしく、まだキスはおろか手も握っていないと拓郎は言う。
二人はまだ友達以上恋人未満の関係だった。
でも自立しなければ父親の前にも出られないでしょと話す朋子。
拓郎は自室に女の子を入れないと朋子と約束する。
森の時計。
今日の売り上げの収支計算をしていた梓が、売り上げの一部をポケットに入れているのをミミが目撃する。
「出しなさい」と言うミミに対して、梓は「取ったわけじゃない」と反抗。
売り上げの計算が合わなかったため、余った千数百円をポケットに入れたらしかった。
勇吉と二人で話すことになった梓。
「余ったからと言ってポケットに入れるのはまずかったね」と勇吉。
「盗んだわけじゃない」と梓は激怒。
「いつでも警察に言ってください。私今日でこのお店やめます」とヒステリックに言い残して森の時計を飛び出す。
皆空窯の拓郎の家を訪れた梓。
拓郎は部屋に通さず、車の中で話すことに。
拓郎は、夜中に若い女の子を家に入れない約束をしたと梓に告げる。
梓は「そう」と言った後、マスターにひどいことを言われたと愚痴を言い始める。
数日前の音成に対する勇吉の態度も、冷たく偉そうだったと非難。
(拓郎) 悪口はよせよ。
(梓) でも本当なのよ、いつかなんて…
人の悪口を言うのはよせ。
俺、嫌なんだよ。人の悪口は聞きたくない。
泥棒扱いされたのよ、私。
お金を取ったみたいに言われたのよ。
タクちゃんあっちの方が正しいと思うの? あのオヤジの方が…
オヤジなんて言うなよ。
オヤジなんて言葉は、おまえが使うな。
関係ないおまえが、気安く使うな。
関係ないって、関係あるわ。
だって私、ひどいこと言われたのよ。
それでも親父だ。
どういうこと…?
あれは…あの人は…俺の親父だ。
親父の悪口を、これ以上言うな…。
拓郎はそう告げると、梓を車に残して自室へと戻る。
夜、閉店後の森の時計。
勇吉が店内でくつろいでいると、近くでパトカーが止まる。
表に出てみると、警察官の風間が、近くの納屋で音成が首を吊って発見されたと言う。
呆然とする勇吉…。
カウンターで一人考え込む勇吉の前に、亡きめぐみが現れる。
(めぐみ) 落ち込んだって始まらないわ。
あなたがあの人を追い込んだわけじゃないわ。
メグ…
俺は周りに厳しすぎるのかな。
音成さんに対してばかりじゃない。
梓ちゃんや、それから拓郎に対しても。
おまえに対しても、そうだったかもしれないけど。
俺は自分でも意識しないうちに、人を傷つける冷たいところがあるのかな。
傷つけるぐらいなら、傷つけられた方がいいって、いつも内心思ってるんだけどな。
仕方ないわ。
そういう人って必要なのよ、世の中に。
厳しい人がいなかったら、世の中どんどんダメになるもの。
あなたもそろそろ、憎まれ役を引き受ける歳なのよ。
勇吉は静かな表情を浮かべる…。
皆空窯。
拓郎の父がマスターであることをよく理解できない梓は、「さっき言ってたのどういうこと?」とドアを叩く。だが拓郎は返事をしなかった…。
第4話終わり。
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