吹雪の中、車内でリストカットして意識を失っていたところを警察に発見された梓(長澤まさみ)。
上富良野の総合病院へと運ばれ応急処置を受ける。
翌朝。
病院のベッドの上で梓が目を覚ますと、近くにはナース(小泉今日子)がいた。
リストカットした梓に対して、ナースは「本当に死ぬ気があるならここを切りなさい」と言い、手首の傷痕を見せる。
このナースもかつて梓のように手首を切ったことがあるのだ。
(ナース) リストカットしたから同情してもらえるなんて、甘いこと考えたってそんなの無駄よ。
解決することなんて何もなくてね、同情なんて誰もしないわよ。
自分に残るのはただ傷だけ。
でも傷が残るのはいいことよ。
バカな時代がありましたって、幸せになってから思い出せるしね。
笑えるわよ、とっても。
時間が経ってから、自分のこの傷を見るたびにね。
おやめなさいもう、くだらないこと。
そう諭され自分の過ちに気づいた梓。目から涙がこぼれる…。
森の時計。
勇吉(寺尾聰)は梓の姉のリリから、梓は自殺をする気で車内で手首を切ったという報告を受けていた。
勇吉は梓の入院している病院へお見舞いに行く。
胸には梓からもらった雪の結晶のペンダントを付けていた。
「吹雪の日、皆空窯に行ったのかい?」と勇吉が聞くと、梓はうなずくが、彼氏には会えなかったという。
勇吉は「彼氏に連絡しようか」と聞くが、梓は「もういいんです」と首をふる。
そんな話をしていると美可子(清水美砂)がお見舞いに訪れる。
梓の傷を隠せるようにと、銀細工のブレスレットを持ってきたのだ。
梓は退院したら銀細工の作り方を教えて欲しいと美可子と約束する。
お見舞いを終えた勇吉は続けて「北時計」へ。
美瑛へと向かう道で梓の車が発見されたので、今回の事故は拓郎に関係したことではないかと心配する。
そして梓が入院していることを、拓郎に伝えてあげるべきかどうか朋子に聞く。
それは朋子から拓郎に伝えて欲しいという願いでもあった…。
病院。
梓は表に出て拓郎の携帯に電話をしてみるが、相変わらず応答はなかった。
その梓に気づいたナース(小泉今日子)が中に入ろうと声をかける。
(ナース) やっぱりボーイフレンド?
あんた見てるとさ、何だか昔の自分を見てる気がする
19だっけ? あんた
私はね、16だった
エッチはたっぷりしてもらった?
まだ?
そういう恋もまだあるんだ
相手は手を出そうとしなかった?
私にはちょっとわかんないけどさ、それが本当ならあんたの相手、本当にあんたのこと好きなのかもしれないよ
一方、拓郎(二宮和也)はコンクールに応募する作品の制作に集中していた。
その皆空窯に元家庭教師の堂本(徳重聡)が突然訪れ、先日「森の時計」を訪れた際に勇吉に会ったと告げる。
(拓郎) おやじと話しました?
(堂本) 話したよ
何の話を
色んなことさ
お父さんしきりと聞きたがっておられた、高校時代のお前のことを
知ってるんですかおやじ?
僕がここにいることを
お父さんに教わって来たんだ
そうですか
お父さんと全然会ってないそうだな
ええ
どうして会いに行かないんだ
お父さん本当に…
たぶん…近々会いに行くつもりです
ただその前に、会えるだけの自分を作りたいんです
拓郎と勇吉の雪解けは近づいていた。
その夜。朋子が皆空窯を訪れる。
朋子はこの前の吹雪の日、梓が手首を切って発見されたと拓郎に伝える。
そして今、入院していることも。
(朋子) そのことをね、あんたのお父さんがあんたに伝えてやってくれって
変な人だよね、あんたのお父さん
自分が直接伝えればいいのに
拓郎は梓との出会いから今までのことを考えていた…。
翌朝。姉のリリに付き添われて梓は退院。
拓郎に電話をかけようとするが、やっぱりやめて美可子の家へと向かう。
雪の結晶のペンダントを美可子に教わりながら作る梓。
一方、拓郎も満足のいく陶芸作品が仕上がりつつあった。
六介はあまり根つめないで少し休んだ方がいいとアドバイスする。
六介に頼まれて皆空窯の入り口にあるオブジェをギャラリーへと移していると、中からお守りが落ちる。富良野神社のお守りだった。
梓がこっそり置いていったと思った拓郎は、梓に電話をかけ、「時間ができたから今から会えないか」と。
富良野のファミレスで待ち合わせ、久しぶりに再会した二人。
事故に遭って入院したが、もう退院したこと、寂しくてリストカットしたことを梓は話す。
拓郎は陶芸のコンクールに集中するため連絡を取らないようにしていたと説明。
梓を嫌って遠ざけていたわけではなかった。
(梓) そうだったんだ
最低だね、自分の肌に傷つけるなんて
親からもらった肌なのにね
(拓郎) まだいいさ
俺のに比べたら
タクちゃんも傷あるの?
拓郎は黙ったままシャツをめくると、左腕に彫られた「死神」の刺青を見せる。
凍りつく梓。
俺の尊敬した先輩の名前さ
こういう名前で呼ばれてたんだ
つまんないケンカで死んじまったけどな
だけどあの頃はこの先輩だけが、俺を男として守ってくれてたんだ
だから死んだ時、俺真っ白になっちまって
あとさき考えずにこの名前を彫ったんだ
一生絶対忘れませんって意味で
そのことが親をどんなに傷つけるか
その時は俺、考えもしなかった
バカだよな、まったく…
そこまで話すと、拓郎は思い出したようにお守りを取り出し、「これありがとう」と。
だが梓はお守りのことを知らないという。
富良野神社のお守り…拓郎は父・勇吉が置いていったものだと気づく。
森の時計。勇吉と亡きめぐみが話している。
(めぐみ) 何見てるの?
(勇吉) うん、自分の顔
シミやらしわやら、ずいぶん増えたな
60年も生きて来たんだもん
なぁ、憶えてるかい
拓郎が生まれた時の、あの何ともいえない肌のきれいさを
憶えてるわ
赤ちゃんの肌が、こんなにもきれいなもんかって
そのことに俺は何よりも感動した
私もよ、ほんとにあんなにきれいなもの、見たことなかったわ
うん
あなたがあんまり撫で回すから、汚れるから止してって私言ったわ
そう言うおまえも撫で回してた
かわいかったわね
あぁ、かわいかったな…
ファミリーレストラン。
うつむいてお守りを握り締める拓郎。
どうしたの、どうしたのタクちゃん
来てくれてたんだ
何が?
おやじ…
こっそり、来てくれてたんだ…
拓郎の目から涙が溢れる…
第9話終わり。
[ ←8話を見る / 一覧にもどる / 10話を見る→ ]