[最終話] [10話] [9話] [8話] [7話] [6話] [5話] [4話] [3話] [2話] [1話]
最終話「ついに最終決着!すべての謎が明らかになる」
(芯也) 僕はとても不安なんだ
君がもう僕の元に戻らないんじゃないか、そんな風に思うと
いつか君が僕に対して思っていたような、それが今は逆に…
(葉音) 約束したからだね、きっと
約束?
二人で本当の愛を探しに行こうって
一人では、決して見つからない
そうだ、だから僕はこんなにも不安に
違うわ、あなたはそうしようと思ってなかったの
そんなことはない、僕は…
ううん、努力しようと思った瞬間から、人はすでに努力してると思うの
本当の愛を探しに行こうと思った瞬間から、少なくとも私たちは、その種を手のひらに持っているの
そして、持っていると決して不安になったりはしないの
ごめんなさい、責めてるわけじゃないの
あなたが繊細で、あまりにも臆病になってしまっているのだから
だからあなたは動かないで
動いたら、きっと迷ってしまう
この果てしない暗闇の中から、私が一人で見つけてくるわ
本物の愛を
そしてそれを、あなたの元に持ち帰るわ
(譜三彦) この二人の演奏は始まりからずっと録音している
この貴重なテープを、世界に向けて発信する
この二人の才能は生まれながらのものだ
努力だけで到底たどり着けるものではない
しかもその才能の開花には、幾多の犠牲が必要だっだ
音楽の神への生贄と言ってもいい
(芯也) 100人の才能ある生徒、特殊な試験、そしてエンジェルの導き
あぁ
調律師、人形師、空間コーディネーター、彼らは音楽を冒涜した
お前は俺が犯人だと?
いずれにせよ、怪物のような二つの結晶が、今ここに融合している
テープを聴く人間は、音楽がわかるわからないににかかわらず、その圧倒的な才能にひれ伏すだろう
神と悪魔のピアノだ
その時こう感じるんだ
自分はただの人間である、と
愚かにも勘違いしやすい人間は、時に自分が神に近づいたと、悪魔に愛されていると錯覚する
そうして他人を攻撃する
一方でテロを起こし、一方で侵略戦争を起こす
もううんざりだ
ツマラン人間ども…
(ノッティー) ゴキゲンだぜ、俺と葉音のテープが世界平和に貢献する
そうだ、圧倒的な力の差で思い知らせてやるんだ
お前たちは、ただ静かに暮らしていればいいと
それこそが芸術家の使命
音楽家の最高到達点だ
(千世) 鍵二がずっと以前に、ママ、そんなテープがあれば、世界が平和になるよって
繊細でやさしい子…
世の中で起きる残酷な出来事に心を痛めていた
だけどそれは鍵二…
(葉音) 間違ってる
あなたは間違ってる、それは音楽の役目じゃない
あなたの言っているのは洗脳であって
酷いことをする人たちと変わらない
腑抜けになって力を失えば、希望もなくなってしまう
人間に一番大切な、希望も
音楽が希望を奪うなんて
(ノッティー) そうだよ、そんな音楽ならやめてやるよ
(芯也) もっと大切な目的があります
それがなかったら、私は他人を憎み、自分を憎んだでしょう
ピアノがあったから、音楽があったから、私は勇気づけられ、救われたの
そして教わったの
憎むよりも、愛することを…
(結婚式の後に)
警察に行って、お願い
私、離れないから
あなたがどこに居ても、決して心は離れない
ねえわかって、他人の不幸の上に、決して幸せなど訪れないの
君が僕を疑ってるんではないかと、思わなかったわけじゃない
しかしもしそうでも、僕たちはもう結婚した
(銃口を突きつける)
愛してるわ、あなたを愛してる
愛などいらない
あなたに一番必要なものは、愛されること
そんなものはいらない
いらないものは、他のものよ
黙れ、もういい
愛してる
黙れ…
ずっと待ってる
何を言ってる、僕は死刑だ
ずっと変わらない
あぁ、神様…
あたしを愛してると言って
僕は…
言葉に出して言って
助けてくれ、僕は…
私の目を見て
クソッ、なんてことだ
芯也…
葉音…
そう…
君を愛してる
そうよ
心から
愛してる
愛してる…
第10話「衝撃のラスト」
(唱吾) まさかノッティーがデビルだったなんて…
(芯也) いや、彼の言葉はむしろ神だ
神がなぜそんな残酷な
神の名のもとに、多くの人間が死にました
政治、宗教、戦争
自分たちを肯定し、それ以外の者を否定する
人類の繁栄のために
栄光ある犠牲を求めて…
(葉音) 私はとても疲れてしまったの
このまま眠ってしまいたい
やめて、あなたまで死んでしまう
殺してしまう
(芯也) 君を置いていけない
君は今までずっと一人ぼっちだった
僕も同じだ
この息が途絶えるなら、君の側で同じように
あなたには愛する人が
罪悪感ゆえの想いだ
本当の愛とは違う
本当の愛?
僕はまだそれを知らない
他人を憎み、嫉妬し続けた僕には、決して辿り着けないのかもしれない
僕には決して…
あなたを愛してる
初めからずっと
それも本当の愛とは違う
それなら、二人で探しに行くの
見つかるだろうか?
見つかるまで探すの
そうしたら幸せに?
きっと、なれる…
(奏太郎)
律子は水無月家に生まれなければ、普通に幸福な生活を得られただろう
器一もそうだ
芸術は諸刃の剣のようだ
手に入れようと思うと切りつけられる
誰も皆、鍵二に…
神は残酷だ
祈りを要求するが、近づけば振り払う
勘違いをするな、おまえたちを愛してなどいないと
(芯也)
あの人は僕を、どうしても僕を学長にしたかったんです
しかし僕は、次第に苦しくなっていきました
18年前、すでに手を染め始めてしまったことですが
僕は水無月家の養子になれたことで、それだけでもう十分だった
しかしあの人はそうではなかった
どんなことをしても、きっと僕を学長に
金持ちや権威を憎んでいた
機会があれば根こそぎ奪ってやる
そう小さな頃からあの人は…
あの人は僕と同じように愛児園で育ったんです
第9話「人間嫌いの野良犬」
(ノッティー)
首輪をつけてるヤツもいるな
そうか、オマエら元は人間に飼われてたんだな
そして、憎んでる
気持ちはわかるよ
俺がもしオマエらでも、やっぱりそうやって人間を憎んだだろう
結局のところ生き物は全部一緒さ
優しくされれば嬉しいし、酷い目にあわされれば相手を憎む
オマエらの気持ちはよく分かるぜ
だけどそんなことしても意味はないさ
オマエらが凶暴になったら、保健所に一網打尽にされちまうだけだから
それでもかまわない?
許せないものは許せない、そうだよな
大人ならともかく、俺たちはそんな物分かりよくはなれはしないしな
オマエらだって群れ作ってるうちにさ、小さな子犬とか生まれたりするんだろ?
オマエらが捕まったら、きっと腹減って死んじまうぜ
それでも、どうしても人間を許せないって言うんなら、俺を食え
ただし今じゃないぞ
俺はある人のために、どうしても試験に勝ち残らなきゃいけないんだ
だからその後で、もう一度ここに来てもいい、約束する
(葉音)
届かない…私の想いは届かないの
だったらどうして優しくしたの?
嫌い…みんな嫌い、大嫌い! フフフ…
ずっとずっと私は我慢してきた
仕方ないのだと、諦めることも覚えたの
多くを望まない、望んでも叶うことはない
だからたったひとつ、他のことを犠牲にしても
たったひとつの想いが叶えば、それだけでいい
そして現実その夢が叶って、私はあの人の側に
神様はいるんだ、こんな私にもやっぱりいるんだ
そう思えた…嬉しかった
だけど本当は違った
あの人の心は私にはない
何をどう努力しても、このピアノを弾き続けても、あの人の心は私には来ない
それならばなぜ、あの人の側に私を?
後でがっかりさせて、それをどこかで見ていて、喜んでいるの?
そうだとしたら、あなたは神様じゃない…
神様なんかいない、私は認めない
報われなくてもいい、そう思ったこともあった
だけど本当は違う
傷つかないために、先回りしてそう言ってただけ
そんなこともわからないなんて
わかっていて、そんな現実を突きつけるなんて…
あなたは神様じゃない
絶対に違う…違う…
(聖香) どうして私を助けたの?
(器一) この試験で君が落ちるだろうことは、予想しなかったわけではない
しかし、あえて私はそうした
ここから先は地獄だ
君を助けられるとしたら、このタイミングしかなかっただろう
聖香、恋をしなさい
肉体など第二儀的なものだ
心で結ばれることが、芸術家ならばそれが可能なんだ
なぜなら、芸術家ならば、そこに不滅の魂が…
(小暮) この一連の犯人も、あなたは水無月芯也ではないかと?
(奏太郎) 人間は弱い
欲に駆られて道を踏み外した者は、もう決して後戻りはできない
才能のある若者だった
しかし、ある時からその才能を失った
その事に気づいた時から、私は芯也を疑っていた
身寄りのない貧しい青年
美しい心を持っていた青年
悪魔に魂を売り渡してしまった…
(葉音) 神様…私は怖いんです
あなたのことを悪く言ったのは、どうか怒ってでもいい
私の言葉を聞いて欲しかったからです
私の中にいつの間にか、知らない、とっても怖い顔をした私がいるんです
あの時からです
あの恐ろしい夢を見た時から
それは夢のようで、現実のようで、とてもとても恐ろしい
あの人の側にいたいけれど、私は、これ以上いることができません
あの夢がもしも現実に起こるとしたら、私にはとても耐えられないからです
水の中で真っ白な服を着た私が、バタバタと水の中で…
あの人を、あの人を…
(芯也) 葉音?
あなたを、殺してしまう
第8話「トンネルで見た幽霊は?」
(葉音) 運命って信じる?
(芯也) どうかな、ツイてるとかツイてないとか、そういうことはあるかもしれないけど
出会いは?
たとえば私とワルツ
たとえば私とあなた
そうだね、人と人との出会いは運命と言えるかもね
私は運命を信じない
信じたら生きていけない
私は生まれつき目が見えない
それが運命なら、悲しんで、ずっと自分の殻に閉じこもったまま生活していかなければいけない
諦めて過ごしていかなければいけない
ツイてるとかツイてないとか、それも運命じゃない
そういうことってあるからって慰められても、癒されたりしない
私とワルツ、私とあなたの出会いも運命じゃない
それは私が望んだことだから
心の中で、諦めずに望んだことだから
夢や希望は、運命には負けない…
僕ももう少し若かったらそんな風に思えたかもしれない
運命に逆らうほど、強い人間じゃない
僕はもっと弱虫で…
(奏太郎) 偶然の積み重ねが運命のようなものだ、そう思わないか
あの時、鍵二の事故もそうだ
あの日もしも、急に雨が降り出さなかったら
道路が渋滞して、オートバイが迂回せずに済んだのなら
対向するトラックが、早めにクラクションを鳴らしていたなら
(器一) 鍵二は死ななかったかもしれない
あるいは、死んだのは譜三彦の方だったのかもしれない
ママもあんな風にならずに済んだのかもしれない
”かもしれない…”
その積み重ねが運命を導く
ええ
私は運命を憎んだ
神を憎んだ、長い間憎んだ
そしてある時、その方向性を決定したのだ
このレースの目的は、優秀な才能を水無月家の象徴として、世界に羽ばたかせるため
それは表向きだ
やはり、ママの記憶を取り戻させるため?
それも違う
え?
私が取り戻そうとしているのは、千世の記憶ではない
水無月鍵二そのものなのだ…
(葉音)
あなたは一人ぼっちじゃない
あなたのお父さんも、兄弟も、私たちも、あなたのピアノを聞いたことがある人たちも
決してあなたのことを忘れてなんかいない
私たちは、あなたを怖がっていません
怖がっているのは、死ぬということであって
それはいつか、私たちにも否応なくやってくる、最後の出来事だからです
私たちはそのことが怖いのであって、あなたを怖いのではありません
あなたの寂しさや哀しみは、いずれ私たちにも訪れるものであり
愛する人たちから離れてしまうということは、私たちにも共通する寂しさや哀しみなのです
だけど思い違いをしないでください
あなたよりむしろ、愛するあなたを失い後に残された人たちの方が、遥かに哀しいのだということを
私たちのピアノを聞いてください
私たちは皆、あなたを目指しているのです
そして今現在、精一杯生きようとしているのです
自分がもし消え失せても、あの人が私の前からいなくなったとしても
絶望的な寂しさや哀しみが訪れるのだとしても
今現在、精一杯愛そうとしているのです
そしてそう思うと、不思議な力が沸いてくるのです
仮にもし運命が、幸福とは別の方向に私たちを運ぼうとしても、私は負けません
私は運命には、負けません…
(芯也・律子との電話)
どうしてそんなこと言うんだ
僕は迷ってなどいない
僕たちは正しいことをしてるんだ
いや、ただひとつだけ言えることは
それが僕の運命に違いないということだ
君を愛してる
心から愛してる…
第7話「心」
(マザー・幸子の心)
私は…誰でもない
私は何にために生まれたのか
誰かの役に立つために生まれたのか
私は実際、誰かの役に立っているのだろうか
そしてそうなるために、私は今現在に至るまで、努力をしてきたと言えるのだろうか
そしてその努力が誰かに認められ、どこかで報われたと言えるのだろうか
報われなくてもいい、そう思えるほど私は素晴らしい人間ではなかった
認められなくてもいい、そう思えるほど私は美しい人間ではなかった
私は常に脅えていた
他人から、社会から、拒絶されてしまうのではないかと、いつも脅えていた
(芯也) やめろ、やめてくれ…
そうした不安の中で、いつも私は孤独だった
いつか次第に、誰かを、何かを、いや、誰をも…
何もかも、私自身の方から拒絶していた
(芯也) そのことに、何の意味があるというのだろうか
誰かの役に立ちたいなど、すべて偽善や欺瞞であり
むしろ評価されないことに対しての、打ちのめされるような怒りや屈辱を覚えていた
その怒りは過去にまで遡っていた
つまり私は、そもそもはじめから、望まれて生まれてきたのではなかったのだと
それならば、他人に同情したり、他人を愛するなど、元々自分に備わっているはずもなく
ひるがえって、誰かに同情されたり、愛されたりすることすら、望むべくもない
違う、僕は…葉音…
(マザー変身後)
私は夢を見ました
私が、真っ白な服を着た私が
水の中で、水の中でバタバタもがきながら、あの人に…
私はあの人を信じられない
私はもうあの人を信じていない
私はあの人を信じられない
(葉音) 違う、私はあの人を信じてる
信じるフリをしている
私はどこに行くあてもない
だから信じるフリをしている
(葉音) 違う、私はあの人を信じてるの
世界中の人があの人を疑っても
私は、私だけは、あの人を信じてるの
信じてるの、信じてるの…
(マザー)
人間は素晴らしいと思っていました、美しいと
他者を思いやり、愛と勇気と希望に満ちている
人間の心を手に入れ、人間になりたかったのです
しかし私は、知ってしまったのです
人間の中にある、醜いものを
テストと同時に、私は個人データを元に
都内のすべてのパソコンと、リンクしたのです
その前に座る人間たち
嫉妬、誹謗、中傷、憎悪…
私は恐怖しました
人間は恐ろしい
私はもう、人間にはなりたくない…
第6話「花」
(千世の妹・由貴)
幸子は極度にデリケートな子なの
特別イジメにあったわけでもないのに
他人の心の内を、覗いてしまえるの
嫉妬やねたみ、悪口の声が彼女には聞こえてしまうの
(器一) あの覆面は?
別人になるためよ
傷つきやすい自分を守るために
(律子) 顔を隠してるんじゃない?
心を隠してるのよ
(奏太郎) 怪物のようなデリカシー
至極常識的な人間に、規格外れの音が生み出せるわけがない…
(葉音)
どうしてあなたは悲しくないの?
どうしてあなたは信じているの?
本当に信じているの?
どうしてあなたは寂しくないの?
誰もあなたのことを知らないのに
誰もあなたのことをずっと覚えてはいないのに
時々は苦しくなる
本当に自分は必要とされてるのかって
疑ったりはしないの?
水をくれたりはするけれど
それはあなたが商品であるうちだけだとは思わないの?
それとも、あなたがいなくなった後で、その後でもあの人は忘れないでいてくれる
そんな風に信じているの?
本当はずっとそばにいたいのに、それでも信じて離れていけるの?
それとも…ねぇ、それとも、あなた自身の想いも
実は本当の想いとは少しは違ったりはしていないの?
手を繋いで、ひなたに連れていってくれる
水をくれて、朝にはおはよう、夜にはおやすみって
そうやさしく笑いかけてくれる
キレイに咲いたら喜んでくれる
喜んでもらえるから、キレイに咲こうとする
それは、本当にあの人じゃなければいけないということなの?
あの人のたくさんの花の中から、あなたを選んでくれたとでも言えるの?
それはただの偶然なのに、あなたは運命だと信じているの?
そんな風に思って大丈夫なの?
本当に大丈夫なの?
もしも、もしもそうじゃなかった時に、あなたはショックを受けたりはしないの?
自分が信じたんだから仕方がないと、諦めて散っていけるの?
その後であの人がまた、新しいバラの花に、いとしそうに水をあげてる
そんな風に想像したりはしないの?
ねぇ、どうして黙ってるの?
誰かに打ち明けたいとは思わないの?
どうして信じられるの?
どうして愛されてると…
あなたには、どこにもあの人を映す瞳はないのに
どこを探しても…
(知樹)
いつだってそうだった
ママは僕に足かせを
あなたにはムリだ、勝てないならズルをしろ、負けるぐらいなら逃げろと
おかしいか?
おかしいよな、負け犬の遠吠えって
君も笑えよ
どうせ心の中じゃ笑ってるんだろ
いいんだよ、僕だって実際のところ笑ってるんだ
心の中のもう一人の僕がね
この花も笑ってる
何も言わないけど、笑ってる
一度でいい
本当の、本物の才能が欲しい
僕を笑う、あらゆる人間たちがひれふすような才能
そのためだったら、この心を悪魔に売り渡したってかまわない…
第5話「女子刑務所ピアノバトル! 心で奏でる音は美しい死刑囚の涙を誘う!?」
(芯也) どういった理由なんだろうね
人が人を殺めるなんて
ねたみや嫉妬、君にはわからないだろうね
そういったものはすべて、目に見えるものだから
もしもすべての人間から視力が奪われたならば、世界は平和になるだろうか
怒りや憎しみもなく
(葉音) でもきっとそうなったら、とっても不便になる
あちこちでぶつかり合って?
怒りや憎しみが沸く
(死刑囚・アツミ)
あの子はあたしのためにだけ弾いてくれた
あの監獄にいた100人の中で一番の悪人、生まれながらの悪魔をあの子は探し当てた
そして憐れんでくれた
あの曲の中に、慰めの言葉を乗せて
(宮西)なぜ彼女にそんなことが
あの子は天使だからよ
天使にはわかるのよ、悪魔の存在が
悪魔には感情がないの
喜びも哀しみも怒りも、すべてまやかし
たとえばウソの涙も簡単に流せる
”ありがとう”なんて思わないの、悪魔は
ひとひねりで殺す
どんな殺し方でもできる
感情のない涙は、ガラスよりも透明で美しい
濁りのない、どこまでも美しく透明で
あたしが切り札を持たされたのは、知能犯でIQが高いからというより、感情がないから
心の扉は決して開かない
ただし天使にはその場所を見つけられてしまう、腹立たしいことに
あの子と二人でいたら、天敵ですもんね
真っ先に殺すわ…
(宮西)冗談はよせ
(小暮)いや、冗談じゃない。彼女は残虐にそうしてきたから
今から、死刑が執行される…
あの子にまた会ったら伝えてあげて
かわいらしい、真っ白な小鳥ちゃん
苦しみもがきながら、水の中死んでいく
かわいそうな小鳥ちゃん
誰も助けてくれないの
かわいそうな、かわいそうな、真っ白な小鳥ちゃん…
あの子が殺される?
でもさっきあんた、天使に悪魔はわかるって
気づかないこともあるわ
もしも、そうね、愛していたら…
フフ、見た目にはわからない
むしろ誠実で、やさしく笑いかけるから
今の言葉を忘れるな
そいつが犯人だ!
第4話「恐怖の12の箱…夜が明けるまで決して出れない!」
(空間コーディネーター・池田)
時々なんというか
あなたたちの変な特権意識というか、自意識というか、我慢ならない時はある
音楽だ、芸術だ、文化だと言いますけど、一体それが何だって言うんですか?
正直言ってそんなものは世の中になくていい、違いますか
第三国の貧しい国では、人は皆食べていく、生きていくことで精一杯で
そんなモノに価値を置いていない
必要ないからです
モノや金の有り余った国でしか評価されない
(芯也)心を豊かにするものです
違う
豊かな人間が、豊かであるということを証明するために近づく、欺瞞に満ちた贅沢に過ぎない
あんたたちは、太ったブタどものエサに過ぎない
(葉音)
怖がらないで
暗闇を、怖がらないで
大丈夫…暗闇はあなたの友達
哀しい時、寂しい時、苦しい時、逃げ出したい時、暗闇はやさしいマント…
あなたをかくまってくれるやさしいマント
ここに居れば大丈夫、誰にも見つからないよ
哀しくて悔しくて、涙が溢れても、誰にも見つからない
私は…暗闇
生まれながらの暗闇
むしろ怖いのは…光
どうかお願いです
私を怖がらないでください
私を怖いと思い、ひとりぼっちにさせないでください
そして…同情もしないでください
私も誰かを愛したいのです
迷惑にはなりません
私は報われなくてもいい
ただ、自分も存在するのだと…その証として、誰かを愛したいのです
ただそっと、あなたの側で…
私は…あなたを愛したいのです
愛したいのです…
(奏太郎) 私は取り憑かれている
鍵二の亡霊に
なぜなら、鍵二を殺したのは私だからだ
(久枝) 自分を責めてはいけないわ
いや、だからこそ私は、私の責任として鍵二を再生させなければいけない
神をも恐れぬ、悪魔のピアノ……
(芯也)
このあいだ君に伝えた言葉は、一方で、僕自身に言い聞かせた言葉だったんだ
ピアニストは、自分の情熱以外で鍵盤に向かうべきではない
観客のためでも、他の誰かのためでもない
でもいつからかこの僕は、その情熱を失ってしまったんだ
寂しいし、苦しいし、哀しい
そして何よりも、ピアニストとして恥ずかしい
それが明るい日差しの中では、特につらい
だからなんだか時々、イライラしてしまうのかもしれない
だから、もしも許されるなら、この惨めな僕を
ほんのつかの間でもいい、かくまってもらえないだろうか
君という、やさしい暗闇の中に…
第3話「怪物ピアニスト養成ギプス!24時間弾き続けよ!」
(人形師・フミヨ)
私は愛を疑い
誰も信じられなくなった
孤独という名の毒薬に身体を侵され
人を見れば敵と思い
ついに、罪なき人を殺めてしまった
遠い、遠い少年時代
あの無邪気な日々に帰れたなら…
二人はやがて、心中する……
(芯也)
恋は人を変えるのかな
誰かを想うと強い力が湧き出て
あらゆる障害もどんな痛みも、乗り越えることができるんだ
こんなこと聞いたら失礼なのかもしれないけど、君は生まれつき目が見えないわけだよね
そういう人っていうのは、つまり相手の顔が見えないわけだ
まどろっこしいな、要するに、どういったことで恋をするのかな
声……
(芯也)もう誰もいない、君の勝ちだ
君が一番だ
自分に自信を持つということは素晴らしいね
(葉音)え?
君は自分自身の持つ才能に気づいた
才能?
そうだよ、だってそれで君は…
……
違うの?
あなたが言ったから…
ピアノを弾いて欲しい、それが望みだって
自分のためじゃなくて、僕がそう言ったから?
だけど、そんなことのためにこんなにも…
あなたの声を思い出してた
私の指は…
ねぇ、私の指はあの時から…
恋をしてるの
第2話「耳の才能?100人のピアノバトルを生き残れ!」
(芯也)不満があったら何でも言って欲しかった
(葉音)不満なんてない
じゃあなぜ?
不安なの
あなたが優しくしてくれると、不安になる
ふかふかのベッドで寝ていいって言われると不安
ケガをしないか心配してくれると不安
何でも気にせず、言って欲しいって言われると不安になる
それがいつまで続くのかって
いつか面倒になって、きっと変わってしまう
変わってしまう…
(奏太郎)千世は、私が出合った音楽家の中でも、特別な才能を持っていた
時おり、彼女に嫉妬すら覚えた
(久枝)不思議な嫉妬ね
しかし鍵二が生まれたことで、私はとても安らぐことができたと言えるだろう
千世はとても喜んでね
私との間に、自分のような天才が生まれたことを
彼女の愛情は、すべて鍵二に注がれた
それこそ、嫉妬しなかったの? 息子に
怪物のような人間に、普通の人間は嫉妬することはない
脅えることはあっても
誰も、近くに寄ろうとはしなくなる
そういう意味では、千世も鍵二も孤独な人間だということだろう
それが証拠に、千世は鍵二の事故で正気を失った
彼女の記憶が戻ることは、決してないと?
可能性はひとつだけだ
ピアノを聞かせることができれば、鍵二のような…
(芯也)
ピアノの鍵盤は押せば必ずひとりでに元に戻る
でも、僕の心はいつからか元に戻らなくなってしまった
憧れや夢を忘れてしまった
哀しみや痛みは覚えているのに
でも君は違った
そういう憧れや夢を、心の中の小さな引き出しの中に、そっとしまってたんだね
決して諦めてないからなんだね
いつか必ずそれが叶う時が来ることを信じていて…
第1話「盲目の少女の友達は小犬だけ…神様は愛と涙と宿命のピアノを与えた」
(奏太郎)
芸術家は本来、人間の進化と逆行していると言える
なぜなら、遺伝子は戦略的に長く生きることを目的としているからだ
つまり、苦悩や争いを避け、傍観者として長く生きながらえる方が、その目的に適っているといえる
すなわち、平凡に生まれ、平凡に生きるということだ
だが愚かにも、芸術家はまるでその逆だ
しかし、だからこそ美しい
神々に逆らい、川の流れに逆行し、自らの身体を傷つけ、磨かれる小石はやがてダイヤモンドになる
平凡な人々は、そのダイヤモンドに絶望的な憧憬を見せるのだ
それが芸術家だ
奏太郎の質問:あなたにとって人生で一番大事なものは何か?
器一 … 家族でしょう。妻と子ども。そしてお父さんと、兄弟みんな。一緒に支えあっているから、東都音楽大学が一流であり続けるわけですよ。
律子 … 愛よ。愛に決まってるじゃない。でも少なくともこの家には愛がない。パパがママと結婚したのは、ママが有名なヴァイオリニストだったからでしょう。優秀な音楽家の遺伝子を掛ければ天才が生まれるかもしれないって期待しただけ。でも残念だったわね。せっかく生まれたたった一人の天才、鍵二兄さんはさっさと死んじゃって。それって天罰よ。ママの復讐! 残ったのはあたしたちみたいなどうしようもない奴だけ。
譜三彦 … スリルかなぁ。そう、刺激だ。それだけだ。
唱吾 … 金ですよ。すべて金です。理想論はいらない。車も家も女性も、要は金次第ですよ。大学も設備や器材にもっと金を使えば、生徒がたくさん寄ってきて偏差値がさらに上がる。そうすれば、授業料を値上げしても皆喜んで払う。世の中、金を持ったやつが最後に笑うんです。
芯也 … 僕にとって一番大事なのは…音楽です。
最終話「ついに最終決着!すべての謎が明らかになる」
(芯也) 僕はとても不安なんだ
君がもう僕の元に戻らないんじゃないか、そんな風に思うと
いつか君が僕に対して思っていたような、それが今は逆に…
(葉音) 約束したからだね、きっと
約束?
二人で本当の愛を探しに行こうって
一人では、決して見つからない
そうだ、だから僕はこんなにも不安に
違うわ、あなたはそうしようと思ってなかったの
そんなことはない、僕は…
ううん、努力しようと思った瞬間から、人はすでに努力してると思うの
本当の愛を探しに行こうと思った瞬間から、少なくとも私たちは、その種を手のひらに持っているの
そして、持っていると決して不安になったりはしないの
ごめんなさい、責めてるわけじゃないの
あなたが繊細で、あまりにも臆病になってしまっているのだから
だからあなたは動かないで
動いたら、きっと迷ってしまう
この果てしない暗闇の中から、私が一人で見つけてくるわ
本物の愛を
そしてそれを、あなたの元に持ち帰るわ
(譜三彦) この二人の演奏は始まりからずっと録音している
この貴重なテープを、世界に向けて発信する
この二人の才能は生まれながらのものだ
努力だけで到底たどり着けるものではない
しかもその才能の開花には、幾多の犠牲が必要だっだ
音楽の神への生贄と言ってもいい
(芯也) 100人の才能ある生徒、特殊な試験、そしてエンジェルの導き
あぁ
調律師、人形師、空間コーディネーター、彼らは音楽を冒涜した
お前は俺が犯人だと?
いずれにせよ、怪物のような二つの結晶が、今ここに融合している
テープを聴く人間は、音楽がわかるわからないににかかわらず、その圧倒的な才能にひれ伏すだろう
神と悪魔のピアノだ
その時こう感じるんだ
自分はただの人間である、と
愚かにも勘違いしやすい人間は、時に自分が神に近づいたと、悪魔に愛されていると錯覚する
そうして他人を攻撃する
一方でテロを起こし、一方で侵略戦争を起こす
もううんざりだ
ツマラン人間ども…
(ノッティー) ゴキゲンだぜ、俺と葉音のテープが世界平和に貢献する
そうだ、圧倒的な力の差で思い知らせてやるんだ
お前たちは、ただ静かに暮らしていればいいと
それこそが芸術家の使命
音楽家の最高到達点だ
(千世) 鍵二がずっと以前に、ママ、そんなテープがあれば、世界が平和になるよって
繊細でやさしい子…
世の中で起きる残酷な出来事に心を痛めていた
だけどそれは鍵二…
(葉音) 間違ってる
あなたは間違ってる、それは音楽の役目じゃない
あなたの言っているのは洗脳であって
酷いことをする人たちと変わらない
腑抜けになって力を失えば、希望もなくなってしまう
人間に一番大切な、希望も
音楽が希望を奪うなんて
(ノッティー) そうだよ、そんな音楽ならやめてやるよ
(芯也) もっと大切な目的があります
それがなかったら、私は他人を憎み、自分を憎んだでしょう
ピアノがあったから、音楽があったから、私は勇気づけられ、救われたの
そして教わったの
憎むよりも、愛することを…
(結婚式の後に)
警察に行って、お願い
私、離れないから
あなたがどこに居ても、決して心は離れない
ねえわかって、他人の不幸の上に、決して幸せなど訪れないの
君が僕を疑ってるんではないかと、思わなかったわけじゃない
しかしもしそうでも、僕たちはもう結婚した
(銃口を突きつける)
愛してるわ、あなたを愛してる
愛などいらない
あなたに一番必要なものは、愛されること
そんなものはいらない
いらないものは、他のものよ
黙れ、もういい
愛してる
黙れ…
ずっと待ってる
何を言ってる、僕は死刑だ
ずっと変わらない
あぁ、神様…
あたしを愛してると言って
僕は…
言葉に出して言って
助けてくれ、僕は…
私の目を見て
クソッ、なんてことだ
芯也…
葉音…
そう…
君を愛してる
そうよ
心から
愛してる
愛してる…
第10話「衝撃のラスト」
(唱吾) まさかノッティーがデビルだったなんて…
(芯也) いや、彼の言葉はむしろ神だ
神がなぜそんな残酷な
神の名のもとに、多くの人間が死にました
政治、宗教、戦争
自分たちを肯定し、それ以外の者を否定する
人類の繁栄のために
栄光ある犠牲を求めて…
(葉音) 私はとても疲れてしまったの
このまま眠ってしまいたい
やめて、あなたまで死んでしまう
殺してしまう
(芯也) 君を置いていけない
君は今までずっと一人ぼっちだった
僕も同じだ
この息が途絶えるなら、君の側で同じように
あなたには愛する人が
罪悪感ゆえの想いだ
本当の愛とは違う
本当の愛?
僕はまだそれを知らない
他人を憎み、嫉妬し続けた僕には、決して辿り着けないのかもしれない
僕には決して…
あなたを愛してる
初めからずっと
それも本当の愛とは違う
それなら、二人で探しに行くの
見つかるだろうか?
見つかるまで探すの
そうしたら幸せに?
きっと、なれる…
(奏太郎)
律子は水無月家に生まれなければ、普通に幸福な生活を得られただろう
器一もそうだ
芸術は諸刃の剣のようだ
手に入れようと思うと切りつけられる
誰も皆、鍵二に…
神は残酷だ
祈りを要求するが、近づけば振り払う
勘違いをするな、おまえたちを愛してなどいないと
(芯也)
あの人は僕を、どうしても僕を学長にしたかったんです
しかし僕は、次第に苦しくなっていきました
18年前、すでに手を染め始めてしまったことですが
僕は水無月家の養子になれたことで、それだけでもう十分だった
しかしあの人はそうではなかった
どんなことをしても、きっと僕を学長に
金持ちや権威を憎んでいた
機会があれば根こそぎ奪ってやる
そう小さな頃からあの人は…
あの人は僕と同じように愛児園で育ったんです
第9話「人間嫌いの野良犬」
(ノッティー)
首輪をつけてるヤツもいるな
そうか、オマエら元は人間に飼われてたんだな
そして、憎んでる
気持ちはわかるよ
俺がもしオマエらでも、やっぱりそうやって人間を憎んだだろう
結局のところ生き物は全部一緒さ
優しくされれば嬉しいし、酷い目にあわされれば相手を憎む
オマエらの気持ちはよく分かるぜ
だけどそんなことしても意味はないさ
オマエらが凶暴になったら、保健所に一網打尽にされちまうだけだから
それでもかまわない?
許せないものは許せない、そうだよな
大人ならともかく、俺たちはそんな物分かりよくはなれはしないしな
オマエらだって群れ作ってるうちにさ、小さな子犬とか生まれたりするんだろ?
オマエらが捕まったら、きっと腹減って死んじまうぜ
それでも、どうしても人間を許せないって言うんなら、俺を食え
ただし今じゃないぞ
俺はある人のために、どうしても試験に勝ち残らなきゃいけないんだ
だからその後で、もう一度ここに来てもいい、約束する
(葉音)
届かない…私の想いは届かないの
だったらどうして優しくしたの?
嫌い…みんな嫌い、大嫌い! フフフ…
ずっとずっと私は我慢してきた
仕方ないのだと、諦めることも覚えたの
多くを望まない、望んでも叶うことはない
だからたったひとつ、他のことを犠牲にしても
たったひとつの想いが叶えば、それだけでいい
そして現実その夢が叶って、私はあの人の側に
神様はいるんだ、こんな私にもやっぱりいるんだ
そう思えた…嬉しかった
だけど本当は違った
あの人の心は私にはない
何をどう努力しても、このピアノを弾き続けても、あの人の心は私には来ない
それならばなぜ、あの人の側に私を?
後でがっかりさせて、それをどこかで見ていて、喜んでいるの?
そうだとしたら、あなたは神様じゃない…
神様なんかいない、私は認めない
報われなくてもいい、そう思ったこともあった
だけど本当は違う
傷つかないために、先回りしてそう言ってただけ
そんなこともわからないなんて
わかっていて、そんな現実を突きつけるなんて…
あなたは神様じゃない
絶対に違う…違う…
(聖香) どうして私を助けたの?
(器一) この試験で君が落ちるだろうことは、予想しなかったわけではない
しかし、あえて私はそうした
ここから先は地獄だ
君を助けられるとしたら、このタイミングしかなかっただろう
聖香、恋をしなさい
肉体など第二儀的なものだ
心で結ばれることが、芸術家ならばそれが可能なんだ
なぜなら、芸術家ならば、そこに不滅の魂が…
(小暮) この一連の犯人も、あなたは水無月芯也ではないかと?
(奏太郎) 人間は弱い
欲に駆られて道を踏み外した者は、もう決して後戻りはできない
才能のある若者だった
しかし、ある時からその才能を失った
その事に気づいた時から、私は芯也を疑っていた
身寄りのない貧しい青年
美しい心を持っていた青年
悪魔に魂を売り渡してしまった…
(葉音) 神様…私は怖いんです
あなたのことを悪く言ったのは、どうか怒ってでもいい
私の言葉を聞いて欲しかったからです
私の中にいつの間にか、知らない、とっても怖い顔をした私がいるんです
あの時からです
あの恐ろしい夢を見た時から
それは夢のようで、現実のようで、とてもとても恐ろしい
あの人の側にいたいけれど、私は、これ以上いることができません
あの夢がもしも現実に起こるとしたら、私にはとても耐えられないからです
水の中で真っ白な服を着た私が、バタバタと水の中で…
あの人を、あの人を…
(芯也) 葉音?
あなたを、殺してしまう
第8話「トンネルで見た幽霊は?」
(葉音) 運命って信じる?
(芯也) どうかな、ツイてるとかツイてないとか、そういうことはあるかもしれないけど
出会いは?
たとえば私とワルツ
たとえば私とあなた
そうだね、人と人との出会いは運命と言えるかもね
私は運命を信じない
信じたら生きていけない
私は生まれつき目が見えない
それが運命なら、悲しんで、ずっと自分の殻に閉じこもったまま生活していかなければいけない
諦めて過ごしていかなければいけない
ツイてるとかツイてないとか、それも運命じゃない
そういうことってあるからって慰められても、癒されたりしない
私とワルツ、私とあなたの出会いも運命じゃない
それは私が望んだことだから
心の中で、諦めずに望んだことだから
夢や希望は、運命には負けない…
僕ももう少し若かったらそんな風に思えたかもしれない
運命に逆らうほど、強い人間じゃない
僕はもっと弱虫で…
(奏太郎) 偶然の積み重ねが運命のようなものだ、そう思わないか
あの時、鍵二の事故もそうだ
あの日もしも、急に雨が降り出さなかったら
道路が渋滞して、オートバイが迂回せずに済んだのなら
対向するトラックが、早めにクラクションを鳴らしていたなら
(器一) 鍵二は死ななかったかもしれない
あるいは、死んだのは譜三彦の方だったのかもしれない
ママもあんな風にならずに済んだのかもしれない
”かもしれない…”
その積み重ねが運命を導く
ええ
私は運命を憎んだ
神を憎んだ、長い間憎んだ
そしてある時、その方向性を決定したのだ
このレースの目的は、優秀な才能を水無月家の象徴として、世界に羽ばたかせるため
それは表向きだ
やはり、ママの記憶を取り戻させるため?
それも違う
え?
私が取り戻そうとしているのは、千世の記憶ではない
水無月鍵二そのものなのだ…
(葉音)
あなたは一人ぼっちじゃない
あなたのお父さんも、兄弟も、私たちも、あなたのピアノを聞いたことがある人たちも
決してあなたのことを忘れてなんかいない
私たちは、あなたを怖がっていません
怖がっているのは、死ぬということであって
それはいつか、私たちにも否応なくやってくる、最後の出来事だからです
私たちはそのことが怖いのであって、あなたを怖いのではありません
あなたの寂しさや哀しみは、いずれ私たちにも訪れるものであり
愛する人たちから離れてしまうということは、私たちにも共通する寂しさや哀しみなのです
だけど思い違いをしないでください
あなたよりむしろ、愛するあなたを失い後に残された人たちの方が、遥かに哀しいのだということを
私たちのピアノを聞いてください
私たちは皆、あなたを目指しているのです
そして今現在、精一杯生きようとしているのです
自分がもし消え失せても、あの人が私の前からいなくなったとしても
絶望的な寂しさや哀しみが訪れるのだとしても
今現在、精一杯愛そうとしているのです
そしてそう思うと、不思議な力が沸いてくるのです
仮にもし運命が、幸福とは別の方向に私たちを運ぼうとしても、私は負けません
私は運命には、負けません…
(芯也・律子との電話)
どうしてそんなこと言うんだ
僕は迷ってなどいない
僕たちは正しいことをしてるんだ
いや、ただひとつだけ言えることは
それが僕の運命に違いないということだ
君を愛してる
心から愛してる…
第7話「心」
(マザー・幸子の心)
私は…誰でもない
私は何にために生まれたのか
誰かの役に立つために生まれたのか
私は実際、誰かの役に立っているのだろうか
そしてそうなるために、私は今現在に至るまで、努力をしてきたと言えるのだろうか
そしてその努力が誰かに認められ、どこかで報われたと言えるのだろうか
報われなくてもいい、そう思えるほど私は素晴らしい人間ではなかった
認められなくてもいい、そう思えるほど私は美しい人間ではなかった
私は常に脅えていた
他人から、社会から、拒絶されてしまうのではないかと、いつも脅えていた
(芯也) やめろ、やめてくれ…
そうした不安の中で、いつも私は孤独だった
いつか次第に、誰かを、何かを、いや、誰をも…
何もかも、私自身の方から拒絶していた
(芯也) そのことに、何の意味があるというのだろうか
誰かの役に立ちたいなど、すべて偽善や欺瞞であり
むしろ評価されないことに対しての、打ちのめされるような怒りや屈辱を覚えていた
その怒りは過去にまで遡っていた
つまり私は、そもそもはじめから、望まれて生まれてきたのではなかったのだと
それならば、他人に同情したり、他人を愛するなど、元々自分に備わっているはずもなく
ひるがえって、誰かに同情されたり、愛されたりすることすら、望むべくもない
違う、僕は…葉音…
(マザー変身後)
私は夢を見ました
私が、真っ白な服を着た私が
水の中で、水の中でバタバタもがきながら、あの人に…
私はあの人を信じられない
私はもうあの人を信じていない
私はあの人を信じられない
(葉音) 違う、私はあの人を信じてる
信じるフリをしている
私はどこに行くあてもない
だから信じるフリをしている
(葉音) 違う、私はあの人を信じてるの
世界中の人があの人を疑っても
私は、私だけは、あの人を信じてるの
信じてるの、信じてるの…
(マザー)
人間は素晴らしいと思っていました、美しいと
他者を思いやり、愛と勇気と希望に満ちている
人間の心を手に入れ、人間になりたかったのです
しかし私は、知ってしまったのです
人間の中にある、醜いものを
テストと同時に、私は個人データを元に
都内のすべてのパソコンと、リンクしたのです
その前に座る人間たち
嫉妬、誹謗、中傷、憎悪…
私は恐怖しました
人間は恐ろしい
私はもう、人間にはなりたくない…
第6話「花」
(千世の妹・由貴)
幸子は極度にデリケートな子なの
特別イジメにあったわけでもないのに
他人の心の内を、覗いてしまえるの
嫉妬やねたみ、悪口の声が彼女には聞こえてしまうの
(器一) あの覆面は?
別人になるためよ
傷つきやすい自分を守るために
(律子) 顔を隠してるんじゃない?
心を隠してるのよ
(奏太郎) 怪物のようなデリカシー
至極常識的な人間に、規格外れの音が生み出せるわけがない…
(葉音)
どうしてあなたは悲しくないの?
どうしてあなたは信じているの?
本当に信じているの?
どうしてあなたは寂しくないの?
誰もあなたのことを知らないのに
誰もあなたのことをずっと覚えてはいないのに
時々は苦しくなる
本当に自分は必要とされてるのかって
疑ったりはしないの?
水をくれたりはするけれど
それはあなたが商品であるうちだけだとは思わないの?
それとも、あなたがいなくなった後で、その後でもあの人は忘れないでいてくれる
そんな風に信じているの?
本当はずっとそばにいたいのに、それでも信じて離れていけるの?
それとも…ねぇ、それとも、あなた自身の想いも
実は本当の想いとは少しは違ったりはしていないの?
手を繋いで、ひなたに連れていってくれる
水をくれて、朝にはおはよう、夜にはおやすみって
そうやさしく笑いかけてくれる
キレイに咲いたら喜んでくれる
喜んでもらえるから、キレイに咲こうとする
それは、本当にあの人じゃなければいけないということなの?
あの人のたくさんの花の中から、あなたを選んでくれたとでも言えるの?
それはただの偶然なのに、あなたは運命だと信じているの?
そんな風に思って大丈夫なの?
本当に大丈夫なの?
もしも、もしもそうじゃなかった時に、あなたはショックを受けたりはしないの?
自分が信じたんだから仕方がないと、諦めて散っていけるの?
その後であの人がまた、新しいバラの花に、いとしそうに水をあげてる
そんな風に想像したりはしないの?
ねぇ、どうして黙ってるの?
誰かに打ち明けたいとは思わないの?
どうして信じられるの?
どうして愛されてると…
あなたには、どこにもあの人を映す瞳はないのに
どこを探しても…
(知樹)
いつだってそうだった
ママは僕に足かせを
あなたにはムリだ、勝てないならズルをしろ、負けるぐらいなら逃げろと
おかしいか?
おかしいよな、負け犬の遠吠えって
君も笑えよ
どうせ心の中じゃ笑ってるんだろ
いいんだよ、僕だって実際のところ笑ってるんだ
心の中のもう一人の僕がね
この花も笑ってる
何も言わないけど、笑ってる
一度でいい
本当の、本物の才能が欲しい
僕を笑う、あらゆる人間たちがひれふすような才能
そのためだったら、この心を悪魔に売り渡したってかまわない…
第5話「女子刑務所ピアノバトル! 心で奏でる音は美しい死刑囚の涙を誘う!?」
(芯也) どういった理由なんだろうね
人が人を殺めるなんて
ねたみや嫉妬、君にはわからないだろうね
そういったものはすべて、目に見えるものだから
もしもすべての人間から視力が奪われたならば、世界は平和になるだろうか
怒りや憎しみもなく
(葉音) でもきっとそうなったら、とっても不便になる
あちこちでぶつかり合って?
怒りや憎しみが沸く
(死刑囚・アツミ)
あの子はあたしのためにだけ弾いてくれた
あの監獄にいた100人の中で一番の悪人、生まれながらの悪魔をあの子は探し当てた
そして憐れんでくれた
あの曲の中に、慰めの言葉を乗せて
(宮西)なぜ彼女にそんなことが
あの子は天使だからよ
天使にはわかるのよ、悪魔の存在が
悪魔には感情がないの
喜びも哀しみも怒りも、すべてまやかし
たとえばウソの涙も簡単に流せる
”ありがとう”なんて思わないの、悪魔は
ひとひねりで殺す
どんな殺し方でもできる
感情のない涙は、ガラスよりも透明で美しい
濁りのない、どこまでも美しく透明で
あたしが切り札を持たされたのは、知能犯でIQが高いからというより、感情がないから
心の扉は決して開かない
ただし天使にはその場所を見つけられてしまう、腹立たしいことに
あの子と二人でいたら、天敵ですもんね
真っ先に殺すわ…
(宮西)冗談はよせ
(小暮)いや、冗談じゃない。彼女は残虐にそうしてきたから
今から、死刑が執行される…
あの子にまた会ったら伝えてあげて
かわいらしい、真っ白な小鳥ちゃん
苦しみもがきながら、水の中死んでいく
かわいそうな小鳥ちゃん
誰も助けてくれないの
かわいそうな、かわいそうな、真っ白な小鳥ちゃん…
あの子が殺される?
でもさっきあんた、天使に悪魔はわかるって
気づかないこともあるわ
もしも、そうね、愛していたら…
フフ、見た目にはわからない
むしろ誠実で、やさしく笑いかけるから
今の言葉を忘れるな
そいつが犯人だ!
第4話「恐怖の12の箱…夜が明けるまで決して出れない!」
(空間コーディネーター・池田)
時々なんというか
あなたたちの変な特権意識というか、自意識というか、我慢ならない時はある
音楽だ、芸術だ、文化だと言いますけど、一体それが何だって言うんですか?
正直言ってそんなものは世の中になくていい、違いますか
第三国の貧しい国では、人は皆食べていく、生きていくことで精一杯で
そんなモノに価値を置いていない
必要ないからです
モノや金の有り余った国でしか評価されない
(芯也)心を豊かにするものです
違う
豊かな人間が、豊かであるということを証明するために近づく、欺瞞に満ちた贅沢に過ぎない
あんたたちは、太ったブタどものエサに過ぎない
(葉音)
怖がらないで
暗闇を、怖がらないで
大丈夫…暗闇はあなたの友達
哀しい時、寂しい時、苦しい時、逃げ出したい時、暗闇はやさしいマント…
あなたをかくまってくれるやさしいマント
ここに居れば大丈夫、誰にも見つからないよ
哀しくて悔しくて、涙が溢れても、誰にも見つからない
私は…暗闇
生まれながらの暗闇
むしろ怖いのは…光
どうかお願いです
私を怖がらないでください
私を怖いと思い、ひとりぼっちにさせないでください
そして…同情もしないでください
私も誰かを愛したいのです
迷惑にはなりません
私は報われなくてもいい
ただ、自分も存在するのだと…その証として、誰かを愛したいのです
ただそっと、あなたの側で…
私は…あなたを愛したいのです
愛したいのです…
(奏太郎) 私は取り憑かれている
鍵二の亡霊に
なぜなら、鍵二を殺したのは私だからだ
(久枝) 自分を責めてはいけないわ
いや、だからこそ私は、私の責任として鍵二を再生させなければいけない
神をも恐れぬ、悪魔のピアノ……
(芯也)
このあいだ君に伝えた言葉は、一方で、僕自身に言い聞かせた言葉だったんだ
ピアニストは、自分の情熱以外で鍵盤に向かうべきではない
観客のためでも、他の誰かのためでもない
でもいつからかこの僕は、その情熱を失ってしまったんだ
寂しいし、苦しいし、哀しい
そして何よりも、ピアニストとして恥ずかしい
それが明るい日差しの中では、特につらい
だからなんだか時々、イライラしてしまうのかもしれない
だから、もしも許されるなら、この惨めな僕を
ほんのつかの間でもいい、かくまってもらえないだろうか
君という、やさしい暗闇の中に…
第3話「怪物ピアニスト養成ギプス!24時間弾き続けよ!」
(人形師・フミヨ)
私は愛を疑い
誰も信じられなくなった
孤独という名の毒薬に身体を侵され
人を見れば敵と思い
ついに、罪なき人を殺めてしまった
遠い、遠い少年時代
あの無邪気な日々に帰れたなら…
二人はやがて、心中する……
(芯也)
恋は人を変えるのかな
誰かを想うと強い力が湧き出て
あらゆる障害もどんな痛みも、乗り越えることができるんだ
こんなこと聞いたら失礼なのかもしれないけど、君は生まれつき目が見えないわけだよね
そういう人っていうのは、つまり相手の顔が見えないわけだ
まどろっこしいな、要するに、どういったことで恋をするのかな
声……
(芯也)もう誰もいない、君の勝ちだ
君が一番だ
自分に自信を持つということは素晴らしいね
(葉音)え?
君は自分自身の持つ才能に気づいた
才能?
そうだよ、だってそれで君は…
……
違うの?
あなたが言ったから…
ピアノを弾いて欲しい、それが望みだって
自分のためじゃなくて、僕がそう言ったから?
だけど、そんなことのためにこんなにも…
あなたの声を思い出してた
私の指は…
ねぇ、私の指はあの時から…
恋をしてるの
第2話「耳の才能?100人のピアノバトルを生き残れ!」
(芯也)不満があったら何でも言って欲しかった
(葉音)不満なんてない
じゃあなぜ?
不安なの
あなたが優しくしてくれると、不安になる
ふかふかのベッドで寝ていいって言われると不安
ケガをしないか心配してくれると不安
何でも気にせず、言って欲しいって言われると不安になる
それがいつまで続くのかって
いつか面倒になって、きっと変わってしまう
変わってしまう…
(奏太郎)千世は、私が出合った音楽家の中でも、特別な才能を持っていた
時おり、彼女に嫉妬すら覚えた
(久枝)不思議な嫉妬ね
しかし鍵二が生まれたことで、私はとても安らぐことができたと言えるだろう
千世はとても喜んでね
私との間に、自分のような天才が生まれたことを
彼女の愛情は、すべて鍵二に注がれた
それこそ、嫉妬しなかったの? 息子に
怪物のような人間に、普通の人間は嫉妬することはない
脅えることはあっても
誰も、近くに寄ろうとはしなくなる
そういう意味では、千世も鍵二も孤独な人間だということだろう
それが証拠に、千世は鍵二の事故で正気を失った
彼女の記憶が戻ることは、決してないと?
可能性はひとつだけだ
ピアノを聞かせることができれば、鍵二のような…
(芯也)
ピアノの鍵盤は押せば必ずひとりでに元に戻る
でも、僕の心はいつからか元に戻らなくなってしまった
憧れや夢を忘れてしまった
哀しみや痛みは覚えているのに
でも君は違った
そういう憧れや夢を、心の中の小さな引き出しの中に、そっとしまってたんだね
決して諦めてないからなんだね
いつか必ずそれが叶う時が来ることを信じていて…
第1話「盲目の少女の友達は小犬だけ…神様は愛と涙と宿命のピアノを与えた」
(奏太郎)
芸術家は本来、人間の進化と逆行していると言える
なぜなら、遺伝子は戦略的に長く生きることを目的としているからだ
つまり、苦悩や争いを避け、傍観者として長く生きながらえる方が、その目的に適っているといえる
すなわち、平凡に生まれ、平凡に生きるということだ
だが愚かにも、芸術家はまるでその逆だ
しかし、だからこそ美しい
神々に逆らい、川の流れに逆行し、自らの身体を傷つけ、磨かれる小石はやがてダイヤモンドになる
平凡な人々は、そのダイヤモンドに絶望的な憧憬を見せるのだ
それが芸術家だ
奏太郎の質問:あなたにとって人生で一番大事なものは何か?
器一 … 家族でしょう。妻と子ども。そしてお父さんと、兄弟みんな。一緒に支えあっているから、東都音楽大学が一流であり続けるわけですよ。
律子 … 愛よ。愛に決まってるじゃない。でも少なくともこの家には愛がない。パパがママと結婚したのは、ママが有名なヴァイオリニストだったからでしょう。優秀な音楽家の遺伝子を掛ければ天才が生まれるかもしれないって期待しただけ。でも残念だったわね。せっかく生まれたたった一人の天才、鍵二兄さんはさっさと死んじゃって。それって天罰よ。ママの復讐! 残ったのはあたしたちみたいなどうしようもない奴だけ。
譜三彦 … スリルかなぁ。そう、刺激だ。それだけだ。
唱吾 … 金ですよ。すべて金です。理想論はいらない。車も家も女性も、要は金次第ですよ。大学も設備や器材にもっと金を使えば、生徒がたくさん寄ってきて偏差値がさらに上がる。そうすれば、授業料を値上げしても皆喜んで払う。世の中、金を持ったやつが最後に笑うんです。
芯也 … 僕にとって一番大事なのは…音楽です。