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世紀末の詩 名セリフ+解釈+感想 [2003/05 update] 各話の解釈を追加して、以前の概要コーナーと統合させました ―― 4行詩 ―― 野亜 ―― 百瀬 ―― 里美 ―― 佑香 ―― 各話ゲスト(a) ―― 各話ゲスト(b) 第1話:この世の果てで愛を唄う少女 第2話:パンドラの箱 第3話:狂った果実 第4話:星の王子様 第5話:車椅子の恋 第6話:天才が愛した女 第7話:恋するコッペパン 第8話:恋し森のクマさん 第9話:僕の名前を当てて 第10話:20年間待った女 第11話:LOVE
第1話 この世の果てで愛を唄う少女 ゲスト…小川すみれ (広末涼子) 汚いんだよ大人は 分かるけどね、パパ養子だから、ママのお金無駄にしたから家を出たの もう互いに愛情はなかったんだよ そんなの違うよ 愛は消えないんだよ! なくなったんなら、最初からなかったんだよ 世の中には偽物が多すぎる 耐えきれなくて手放すのは愛じゃない 終わらないのが愛だって 変わらないのが愛だって 思い出にできないのが愛だって 100万回恋しても、決してたどり着けない… ハローベイビー 僕はきっと愛を知らない 君もそうならついておいで この果てしない物語の彼方へ
第2話 パンドラの箱 ・興梠 一郎 (38歳) - 斎藤洋介 ・仁科 鏡子 (23歳) - 遠山景織子 ・泉 誠司 (28歳) - 袴田吉彦 ラブバードって知ってますか? あぁ、つがいで行動する鳥だろ どちらかが死ぬと、もう一方も死ぬそうです 変な鳥だな どうして?素晴らしいじゃないですか 愛に生き、愛に死ぬんですよ ムキになんな 僕は見たいんだ、そんな美しい愛の形がある事を… それはお前が、救いがたく心の卑しい人間だからだ 自分はちっぽけで小さな人間だと理解しながら、一方で自分より小さな人間を貪欲に探している まるで、自分より不幸な人間を探して同情するワイドショー好きの主婦のようだ しかもなお悪いことに、人間の価値を表面的な見てくれで判断しようとする 俺には、愛の花火がどこで打ち上げられたか、全力で、大汗かいて探し回った彼が星の王子さまに見えたけどな
ラヴバードのような いつも寄り添い 互いにその相手だけが人生の全て 打算も裏切られる不安もない永遠のパートナー 鏡が見たいって言ってたよ その鏡子って言ったっけ、彼女さ 目が見えたら最初に、恋人のコオロギじゃなくて自分の顔が見たいってな 人間はとても眩しい瞬間に、とても大事なものを見失う はじめにこうしたやつがいる こっからこっちは俺の土地だと おそらく、何千万年前の原始人の内の一人が 所有欲の始まりだ 金銭欲、名誉欲、欲と名のつくほとんどすべてが見える物だ 彼女はそれを見ずに済んでいたんだ だから恐ろしく透明だった 人間の欲には際限がない 特に、あれだけの美貌を持ってることを知ればな ハローベイビー 僕はいつも不思議だね 人は見えるものを欲しがるんだ いずれ自分は消えていくのに
第3話 狂った果実 ・津田 愛美 (25歳) - 小田エリカ ・津田 昭文 (52歳) - 清水紘治 たとえ仮に相手が死んでしまったとしても 心に永遠に焼きついて離れず もう誰とも恋をしようと思わない その回路が消滅するような、そんな唯一のものが…愛
一度でいい、映画みたいな恋がしたかった 映画みたいな恋が そしてずっと忘れられることのない、愛にもたどり着きたかった そう、もしかなうなら、死んでしまってもかまわない
だけど夜は違う 暗闇はいつも私の友達だった ねぇ、みんなが暗闇を怖がるのはなぜだかわかる? 太陽は明るくて、いつも事実をみんなの前にはっきりと見せてくれるかもしれない だけど、暗闇はそっと真実を置いていくの みんなが怖がるのは、真実を見るのが怖いからよ 野亜、この部屋をもう一度よく見ろ 暗幕に閉め切られ、昼間でも電気をつけて生活する まるで穴ぐらだ 日差しを欲しがる花もなく、つまりは、朝も昼も夜もない 救いようのない孤独は、臆病さと隣り合わせに、恋も愛も寄せつけない 僕を愛してると言ったのは… むしろ、愛されたいと願ったんだ 勇気を振り絞って、一生に一度だけ だって彼女は死ぬつもりなんでしょう? ずっと僕、うなされちゃうじゃないですか 彼女はそれを望んでいるんだ お前の中で、永遠に忘れられない女に そんなの愛じゃないですよ じゃあ彼女にとっての愛ってのはなんだ この穴ぐらの中で一生を過ごし、年老いて死んでいくことか 僕はずっと君のこと忘れないよ もしも君がそれを…それを愛と呼ぶなら
ピクニックに出掛けよう 不恰好なお握りまんまる頬張って 僕は優しくなれるだろう
第4話 星の王子様 ・山内 羽夢 (14歳) - 真柄佳奈子 ・山内 徹 (60歳) - 谷啓 ・岡林 聡 (48歳) - 布施 博 <羽夢> 父さん、負け惜しみじゃなくってね 僕は愛って、貧しさの中にあると思うんだ 世の中は物がどんどん豊かになっていて、こうやってひとつの物を分け与う機会が少なすぎるんだ それこそが本当の、愛なのに
この世の中を住み良くしたいんです 争うことよりも仲良くすることを 奪うことよりも分け合うことの素晴らしさを、みんなに伝えたいんです
同じ時を長く過ごし、互いに呼吸をし、それが互いの肉体の細胞に加わる だから引き離される時、血の滲むような肉体の痛みをも伴うだろう 愛とは…息をすること ハローベイビー もしも僕に会いたいのなら 僕も君に会いたいのさ きっときっと会いたいのさ
第5話 車椅子の恋 ・星野 守 (30歳) - 三上博史 ・佐々木 留美 (27歳) - 純名理沙 ギリシャ神話を知っているかね オルフェウスは恋人を黄泉の国から助け出そうとした 決して振り返ってはいけない 振り返ると恋人を現世に連れ戻すことは叶わない オルフェウスは不安で、ついに振り返ってしまった そして階段は崩れ去り、恋人は再び黄泉の国へ… 悲しいお話ですよね Trust、信頼関係が崩れたということだ 恋人はオルフェウスの背中を見ながら「振り返らないで」と祈ったはずだ オルフェウスが信頼関係を破ったということですか?不安で 恋人もまた、不安だった 不安という一滴の濁り水が、鋼鉄の愛にやがて穴を開ける 愛とは互いの揺るぎない信頼
僕が似顔絵を書き始めたのは 世の中には、悲しみや苦しみを抱えて生きてる人がとても多いと思うからです その人を、嘘偽りのない自分の心の目で感じてあげたいんです そうして、実際のその人よりもほんの少し良く描いてあげる 太っている人はスリムにとか そういうことだけでなく、ほんの少し明るい色を使ってあげるんです 専門的に勉強したわけでもない僕が言うのもおこがましいんですが 僕が描いた絵を見て、ほんの少し元気を出して欲しいんです 頑張って仕事をしよう 勇気を出して恋愛をしてみよう 人生は…悪いことばかりじゃない 今の話、あいつは単純だから本気で感動しちまったようだが 俺には…あんたの懺悔に聞こえたよ
愛してるんなら、不安なんかに負けてちゃだめなんだよ オルフェウスの話ですね、まるで 愛って信じることなのに… 俺も昔、大事な人を信じなかった 今思うとしかし、愛ってのは信じることですらないのかもしれん 愛ってのはただ、疑わないことだ ハローベイビー 泣かないで 偽物の愛をつかまされたら 僕がホントのにかえてあげるよ
第6話 天才が愛した女 ・広田 馨 - 藤原竜也 ・真中 徹 - 徳山秀典 ・広田 清美 - 南果歩 ・真中 良美 - 手塚理美 ・広田 勤 - 永島敏行 -- ・馨の弾いた曲 … ベートーヴェン 「ピアノ・ソナタ第23番ヘ短調作品57 - 熱情(Appationate)」 ・徹の弾いた曲 … ショパン 「スケルツォ第2番」 しょせん、生きとし生けるものは子孫繁栄という大前提にあるわけだ それならば、すべてのメスはより良いDNAを持つオスと結ばれる戦略を立てていくんだ そこにおいて、最も吸引力の高いのは才能だ しかし、いい女でも、才能ある男を手に入れられずにババアになると、ランクを落とす つまり、子供を扶養する財力 わかりやすく言うと、医者とか弁護士だ さらにランクを下げると、せめてバカでも、ツラだけでもといいやつに… その理論だと、僕は優秀じゃないから結婚できないのかもって まぁそう悲観するな 俺が思うにな、女の遺伝子の中にはお前みたいな何の取り柄もない男に吸引される例もある 慈しむ母性、つまり慈愛だ
恋は喜びや楽しさで、やがて終わってもアルバムに挿めるものだ 時々、懐かしく開くこともできます だが愛は違う 愛は悲しみも刻み込むものだ お互いの心に、思い出にできない傷をも刻み込む 共に生きて行くから 人はしょせん孤独な生き物だから 相手に深く傷を負わせ、また一方で包帯を持ち寄るという自虐的なことをする その瞬間の繋がりが、永遠の安らぎに変わることが愛なんですね 愛が懐かしい思い出になるのは、相手が死んだ時だけだろうな 互いに疑うこともなく けど、それじゃ広田聡は死ぬ時でさえ安らげなかった あぁ、その一枚の手紙の悲劇だ 一方的に愛し、妻からは愛されていると思えなかっただろう 奥さんは取り返しのつかない罪を あぁ、もしかしたらいずれその酬いが… ハローベイビー 僕がみかん色の夕陽にとけても 僕のことを忘れないでね どうか僕を忘れないで 以下、当サイト掲示板の投稿より抜粋
第7話 恋するコッペパン ・石田真紀子 - 桜井幸子 ・石田 基 - 大江千里 ・石田涼子 - 池脇千鶴 もし無人島に、愛する者と二人流されてしまったとしたならば その相手が病気になり、自分より先に死んでしまうとわかった時、あなたならどうします 私も後を追って自殺してしまうかも それは愛と呼べるでしょうか 孤独に耐えられない だから死ぬ それは愛とは呼べない それなら、一人で生きるべきだと? 生への執着かもしれない 相手が死んでも自分は生きたい あるいは、死ぬ勇気がない いずれにしろ愛とは呼べない 相手が先に死に逝くとき 後を追うことも、心の中に留めて生きるということも、愛とは呼ばない 真実の愛とは、相手の死を認知しないということだ なぜなら、それが唯一のものであるから、認めることは心が壊れるということだ あのパン屋はそうではなかった 認めて、苦しんでいた 奥さんの真実の愛を受け止めようと必死でやっただけだ 亘、俺のおふくろは親父の死を認知した時、気がふれたよ 石田さんの愛は偽物だというんですか? 奥さんの気持ちこそ愛なんかじゃない 愛する人を苦しめるなんてそんなの本当の愛情じゃない 愛はもっと優しいはずだ "涙が出るほど優しい気持ちになった" あんたは石田さんの作ったコッペパンを食べてそう感じたんだろ あんな綺麗な遺体を初めて見たんだ いつもいつも大事に見つめ、パンをこねる時に流した涙が恋するパンを作ったんだ それを偽物だなんて… あんたの言う愛がいかれてるんだ 気がふれるのが愛だなんて 愛とは…努力することなんだ 先に死んだ人間は何の努力もないじゃないか 僕は思う 愛とは、本当に相手を愛するならば 生きることなんだ 生きて生きて、愛する人を看取り、一人残される悲しみを受けることなんだ 愛とは生きることなんだ ハローベイビー 優しさって 無限に続く愚かなほどの優しさって いつかは愛にたどり着くかな
第8話 恋し森のクマさん ・影山 宗一 (47歳) - 田中健 ・影山 睦美 (20歳) - 持田真樹 ・影山 歩美 (42歳) - あづみれいか ・影山 良希 (17歳) - 島田亮・島田潤 お前たちの中に感性のあるやつはいるか! 生きにくい世の中、いつも違うレベルだが存在する 感性が豊かであるが故に、はぐれる人間がいるということだ 矛盾や抑圧から不登校になる子供達は俺は認める いつか目が覚め、世の中を救うからだ しかしこいつのように、わかりやすくグレるのは、頭の悪いバカか親のしつけの問題だ 縁日の柔らかいモナカだ その心は、すぐ溶けて金魚も掬えない <影山> 野亜くん、親子といえどもね、努力が必要なんだよ 初めから愛情で繋がっていると考えるのは、幻想なんだ お互いの歴史の中に介在し、ゆっくりと育んでいくものなんだよ 君も家族を持ちたまえ いいかね、自分だけのために生きる人生は、いつか必ず後悔をするんだ 結果、誰にも影響を与えていないってことに気付くんだよ スポーツでも学問でも、芸術でもそうだ 他人に影響を与えていると思うのは、うぬぼれに過ぎない 世の中がもっともっと荒れた時代が来ると、それらは何の役にも立たず、ただただ本質的なものだけが残る 食べて、眠り、愛するということだけだ 家族だよ しょせん最後は家族なんだ 一人ぼっちで死んでいくというのは、出来の悪い映画的なダンディズムに過ぎない 私の家族がクローンだとして、それが何か問題があるのだろうか わかりやすく君に置き換えてみたまえ 恋人はいるかね 片思いの人は…彼女は暮れに結婚してしまうんです その人のクローンが欲しいとは思わないかね 自分の気持ちを受け入れてくれない人より、すぐそばで理解してくれる同じ人が手に入るとしたら けどそれは彼女ではないですから どうしてそんなことが言えるんだね クローンはロボットではない 感情もあるんだよ 君の思う通りに、情緒も育てていけるんだ それでも彼女ではないと言うんなら 君はその片思いの彼女の、何を知っていると言うのかな 心の全てを理解し、愛しているとでもうぬぼれるつもりかね 事故に遭い、心身を喪失した彼女と、まるで別人の肉体になった彼女 どちらを愛せるかと思うかね 前者のはずだ 別人の肉体など、意味をなさないからだ 君が思っているのは、姿形に過ぎないのだよ まぁしょせん人間の愛などというものは、そういうことなんだ だったら、自分だけを見つめてくれるクローンを愛せるはずだ 自分の意志を殺して、相手の自我に合わせる必要もない 教育によっては決して心変わりもしない 無限の愛を提供してくれるとしたら、どうなんだ 現代の家族に置き換えてみたまえ みんなとても疲れた顔をし、安らげる場所さえもない それぞれが自意識のみを押し付けて お互いにそれを決して理解しようともしない いつも苛立ちと諦めの中で、予定調和を探すだけだ 繋がりなどは、表面的なものに過ぎないのだよ エセヒューマニズムのモラルで否定をするが 人間は最後は、自己愛でしかないのだよ それに向けてくれるクローンの愛があれば、犯罪も消える 全ての人間の心の病は、全て解決できるんだよ 家庭が壊れたことで自分も壊れたんだ そして俺もまた、お前よりむしろ奴の叫びに洗脳された 愛の究極がしょせん自己愛に根ざしているという論理には、つまらんモラルでの反論しかできない 俺もまた影山のように思うのかもしれん クローンを愛せると 悲しみではなく、むしろ、安らぎの中で だが、お前は生理的な嫌悪を感じた 婚約者のいる里美ちゃんは、お前に振り向く可能性は薄い 彼女のクローンが欲しいとは思わんか ロボットではないんだ 天使の様に見えた睦美のように、生身の肉体だ お前だけを愛する里美ちゃんだ <良希> ガキの頃からそうだった 親父は俺達に見向きもしなかった 悪さをしても、失望したような眼差しで他人のように黙殺された 殴られてもいい、実感が欲しかったのに 姉ちゃんは好きでもない男の子供を孕んで自殺した 俺達に親父はいなかった 愛されてはいなかったのに 親父は愛してると言った 俺やお袋や姉ちゃんに、似たバケモノを… 人間の愛はしょせん自己愛に根ざしているのかもしれない 僕も結局は、自分が一番かわいいのかもしれない だけど僕が好きなのは、あなたを好きな自分なんだ 振り向いてくれなくたっていい 僕が想っているのは、あなたがこの宇宙で唯一のあなただからなんだ この目を潰しても、あなたは宇宙で一人だけなんだ ハローベイビー 心が壊れてしまうのは いつか君が僕だったからさ そして僕が君だったからさ
第9話 僕の名前を当てて ・謎の男 - 大沢たかお ・ナオ - 坂井真紀(ミアとの2役) <謎の男> 愛における喜びについて語ろう 喜びとはすなわち生まれるということ 込み上げる感情の発芽であります しかし一方で決して永続性はない ただただ、その瞬間におけるプラスの感情であり つまりはそっからマイナスのエネルギーがなだらかに広がる あるいは、急速に落ちてくんです たとえば子供が産まれる その瞬間に対する喜びはしだいに消え失せる 自分の老いの確認、経済的不安 成長する子供は決して期待にそぐわない その緩やかな絶望 父性や母性は永続性があるじゃないか 父性や母性とはいったい何か 数学的、物理的に質量が測られるものではない 当たり前だ 世の中に当たり前のことなどありません すべて原因があり結果がある 愛における喜びとは原因であり結果への誘導 絶望への過程を作る 何を言いたいのかさっぱりわからない 否定しているんだろう 喜びという感情などいらないと その通りです 喜びなどなければ、絶望しない 人間の感情の中に喜びなどいらないんです あらゆる犯罪は喜びに発動される 自分の喜びのために あるいは他人を喜ばすために、人間は犯罪を犯す 喜びを貪るお前たちは罪悪の源だ 愛における怒りについて語ろう 野亜くん、僕が彼女をレイプしたらどうします? 殺すよ、お前を探し出して必ず 勇ましい限りだが僕の質問はそういう意味じゃありません たとえば僕があなたに殺されたとして、その後のことです 君は彼女がレイプされたとして、その前と同じように愛せるかな 当たり前だそんなこと 彼女のせいじゃない、いたわって前より優しくするさ 表面的にはね モーゼさんどうです、以前と同じように愛せますか きっと無理だな、怒りが形を変える 素晴らしい、その通りですよ 野亜くん、先ほど君は怒りを覚えた 彼女が陵辱されることを想像して、我を忘れるほどの怒りを 怒りは確実に愛の形を変質させる 理屈では分かっていても、怒りが変質させた愛情は反比例のベクトルを目指すことになる すなわち、彼女に対する生理的嫌悪です 優しくするといいましたね、いたわるとも それは嫌悪の裏返しだ 自分の感情を押し殺すことになる しかし彼女の方はそれ見抜きますよ そして彼女は姿を消すでしょう、君の前から 野亜くん、その時君は内心ほっとするんですよ わかってもらえましたでしょうか 人間の感情の中に怒りというものは必要ないんだということを 怒りは憎しみに変わり、愛する者をも恨んでいく そんなもの、無くなればいいのに そんなものが無ければ、愛は永遠だったかもしれないのに… 愛における哀しみについて話しましょう つまりは、哀しみとは人間の持つ業そのものです 生きる者として、死なねばならない圧倒的な絶望から派生している 友人や恋人は、自分が死んだら涙を流すだろうか 流しても、その涙の質量はいかなるものか 時間の経過により、その存在自体もいずれ忘れられていくものならば 今生きてる自分になんの理由があるんでしょう 子供を残すため? しかし、子供の未来など自分の消えていく過去を慰めたりするでしょうか 愛する者たちはいずれ、自分を跡形もなく忘れる それならば、愛することに何の意味があるのでしょう 悲しみとは虚しさを生むものです そして、虚無感は今の時代に集約されている この世紀末に… 愛における楽しみについて話しましょう 楽しみとはすなわち育むこと 人によって細く、あるいは太く持続しようとする努力なき欲望 絶対的なものはつまりは瞬間的なものであるはずなのに 欲望ゆえに継続しようとする感情 しかも徐々に加速し、欲望がまた欲望を呼ぶ いいですか 生き物はすべて与えられることだけを甘受すべきであるはずなのに 人間は与えようともする しかし、その与えるという行為は一見聞こえはいいが 決して自分の持つ何かを与えることではない つまり、他から搾取しようとするものです 与えられ…与え、そして不足し…さらに欲求し 人間は、自分たちの住むこの星さえもむさぼり尽くしていく ただ楽しむために 愛における楽しみなど人間に必要ないものなんです 楽しむという感情がなければ 人間は堕落することがなくなる あなたは喜怒哀楽を否定するんですね 人間の後天的感情すべてと言っていいでしょう 愛とは、根源的なものなんです 生まれながらに持っているものなんです それをいつしか人間は、喜び、怒り、哀しみ、そして楽しむことで歪め失う 愛とは恋のように思い出にはできず 失えば誰かを好きになる回路すら奪われるもので 瞬間にして永遠で 疑わず、諦めず そして喜び、怒り、哀しみ、楽しみ、救われるものだと 恋する人と出会い長い時間をかけて魂が寄り添うことなんだ それが愛なんだ 誰もが手に入れられるものじゃない まして生まれながら持ってるものなんかじゃない お前の愛は偽物だ ハローベイビー 不幸の手紙は僕が破ろう この世に終わりなんかないんだよ 君を愛する僕がいるから
第10話 20年間待った女 ・大島 武郎 - 杉浦直樹 ・牧野 冬子 - 永島暎子 <大島> 不思議だな 私はこの大学の学長なのに、こんなところしか居場所がない いや、大学だけじゃない 家に帰ってもそうだ 妻はにわかに着飾り始め 娘は結婚相手を選ぶようになり 息子は金がかかる留学をせがむ それぞれが自己顕示欲を増幅させていく 私が学長になったということでだ 以前のささやかな団欒は今はない いや、それは私の穿った見方なのかもしれない 私自身もまた、知らない間に周囲の人間を見下すようになってしまったんだろう この私がだ 学者であることを誇りにしていた私が 人間関係の頂点に立たされて いつか自分を見失ってしまった 力とは孤独を連れてくる 友人をも、社会でのランクづけで見下してしまうんだ どこにスパイがいるのかと、猜疑心の固まりだ 私は裸の王様になってしまった 哀れな、老いた王様だ あぁ百瀬か なんて不思議なことだろうか 学長に上り詰めた孤独な勝利者の私と 敗残者となり、死期すら近い百瀬 まるで違う生き方を強いられている私たち二人が 最後に求めているものは、まるで同じものなんだ あまりに変わってしまう人間の時の流れの中で、たったひとつ変わらぬもの ただそこに、動かずにそこにある ある? いや、そんなものはきっと存在しないことも、私たちは知っている 夢と言ってもいいだろう それは…女の愛だ 私、亘さんに怒られたんです 男と女は違うんだって 確かにそうかもしれません 女は…好きな人ができると前の人のことはあまり思い出すことはありませんから だからたくましく生きられるんです 忘れていき、今を生きないと母親にはなれない 男の人も父親になります 極論すると、父親はいらないのかもしれません 弱い生き物である男が、子供たちの前で強さを見せていくのは大変ですから 失望させることの方が大きい いや、弱さを見せて、例えば娘には母性の発芽を促すということも必要なのかもしれませんが そんなに弱いですか?男の人は そんなに弱いですよ、男は とりわけ私は弱い 思い出ですか? えぇ…そうね 単なる恋だったんですか?古いアルバムに挿んである 教授は愛していたと言いました 唯一愛した人だって、僕に言ったんです それが? それがって… 確かに教授は結婚しました あなたを捨てて新しい恋に でもそれは単なる恋だったんです 愛に辿り着くことはなかったんです なぜならそれは、もう愛した人がいたからだったんです 愛は恋とは違う 本当の愛があったら…もう誰も好きにならない なれないのが愛だからです 教授は、それに気づいたんです ハローベイビー いつの間にか眠っていたね それがチッポケな夜明けでも 君の側で目覚めたいのさ
最終話 LOVE ・三島麗美 (28歳) - ジョイ・ウォン 鏡は愛の敵と言えるだろう 自己愛を増幅するからだ 自分を好きな人間は、他人も愛せるとよく道徳の時間で言いますよ 表面的にはそうだろう しかし、本質は違う 自分を愛し過ぎると他人を愛さない? 鏡の照り返しのように、したことを返せと要求するようになる 自分を愛するがゆえに、いつも不平や不満がある 恋を何度も繰り返すだけですね 恋というと聞こえはいいがな 性的な吸引に過ぎない むろん、入口は動物である以上、DNAのアンテナには逆らえない 入口がまずそこにあるのは仕方ない 時の流れに負けてしまう? そうだ愛とは熟練の鍛冶屋の打つ名刀のようなものだ 相手を変えて作れるものじゃない 一人の人と喜び、怒り、哀しみ、そして楽しむ、時の大いなる流れ しかし、結婚していたずらに時が過ぎれば、たどり着けるというもんじゃない 既婚女性の7割は、仮に生まれ変わったら別の男性と暮らしたいというデータがあるそうです 心貧しき女だからだ いやなら別れればいいのに、生活や子供などを重視する 子供を重視するのはいけませんか? 夫や妻よりも子供だというのは、逃避にすぎない 愛のない明らかな証拠だろう 相手が死に、生活に困れば、あるいは孤独に耐えられず再婚する 鏡をたくさん見る人間に多いはずだ 人間よ、自分と他人との区別をやめよ わがままな子供を叱るのに、自分の子供も他人の子供も関係ない 手を差し伸べる若者に、年寄り扱いするなと怒る老人たちは哀しい生き物だ 愛とは極限であり、ほとんどの人間が手に入れられずに死んでいく 俺もまた… そんなことないですよ 教授は待ってる女の人がいたじゃないですか それすらつきつめると愛と呼べるのかわからない いや、愛と呼べば、そこから逃げた自分はより哀れだからだ 愛する人がいて、食べるものがあり、眠る場所がある これだけで幸福が得られるはずなのに 誰もが愛し愛されることにたどり着かない 恋を繰り返し、魂を汚し、自己愛に帰結する 自分を守るために他人を悪く言い、傷つけ、いつも被害者意識があり、その総意として戦争を起こす 愛はあるのか…存在するのか… 麗美、僕の愛する麗美… ときどき君のそばを離れる僕を、どうか許して欲しいんだ 愛する麗美 君を愛するゆえに、僕は時に違う景色を見つめなければならない 僕がとどまることは、いつか愛そのものすら停滞させてしまうものだから ああしかし一方で僕は、この肉体をなくしてしまうかもしれない この山の頂きに抱かれて それでも僕の魂は決して消えることはないだろう いかに離れていても決して 麗美、僕の愛する人 僕の心をいつか、いつかわかって欲しい たとえ僕が死んでも、魂が君に伝えてくれるはずだ そして君もまた、僕だけのアンテナの中で捕らえてくれるだろう 僕は君のために、そして僕たちのために、時に離れる必要がある どんなに今愛していても、その愛を守るために… 僕はもうすぐ肉体を死なせてしまうだろう しかし、僕のことを許し、理解し、そして永遠に愛して欲しい 僕もまた君をそうするだろう この肉体が死んでなお… なぜなら愛とは… 唯一の真実の愛とは、互いの愛を確かめ合うための… 愛とは…冒険だから ハローベイビー 愛って風船の形をしてるんだ プーッと息を吹きこんで 苦しくなったら交替しよう 割れないようにキュッと結ぼう 赤、青、黄色それぞれに 色鮮やかな愛が上がるよ 時には風に流されよう 時には雨に打たれよう いつか降りゆく場所さえも 僕と君は一緒なんだね
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