藤村知樹の自己愛について
[5話]
(直子) あたし…先生に憧れてたんです
あんな風じゃなくて、もっとあれだったら…
だって、みんなに自慢しても、羨ましがられたと思うし
(藤村) そのうち僕に幻滅したら、そのこともみんなに話してたと思うよ
幻滅なんて…
するさ、残酷なまでにね
こうするしか、君は僕を受け入れなかったと思うよ
このテープがあれば、君は盲目的に僕に従う…
若くてハンサムなので女生徒から絶大な人気がある英語教師・藤村。
だがそれは表面的な人気で、しょせんアイドル的に広く浅くしか愛されないと本人の心は渇いている。
そしてなかば強制的に自分に従わせることでしか、自分は愛されないと思っている歪んだ人物。
[7話]
妊娠してるんだってね
ちゃんと堕ろしますから
休学して、どっかで内緒で生めばいい
私と結婚するつもりなんですか?
君は僕をこの先愛してくれる?
僕はね、君が妊娠してるって知って気がついたんだ
君からの愛情を望むより、もっと素晴らしいことがあるんだってね
子供だよ
なんの知識も思想もない、全く無垢な状態で生まれる僕の赤ん坊さ
僕の言う通りに、僕の思うがままに、僕を愛してくれる
君は僕の子供を産むんだ
そんなことできません、そんなこと…
君はするよ
自分を開放するためにね
[9話]
現代の女性には絶望してるんですよ
僕だけじゃない
あなたたちも含めたすべての男性がね
彼女たちはすべてにおいて利己的です
愛情さえもね
純粋な母性を本能的に持ってるのは、性体験のないティーンの間だけだ
むろん、個人差はあるでしょうけどね
藤村は利己的で打算的な女性に対して失望していることがわかる。
よって赤ちゃんに象徴されるような、無垢な精神を求めていた。純粋に自分だけを愛してくれるピュアな存在。
その純粋な、利己的ではない愛情が残っているのは10代だけであり、大人になるにつれて打算的になっていくと。
[9話]
僕は何も悪いことはしてないのに…
悪いのは、僕を愛さない女たちじゃないか
愛されることばかり求める女たちじゃないか!
僕はただ、誰かに愛されたかっただけなんだ…
…二人で、小さな家を買うんだ
小犬をもらって
子供は多い方がいい
ひとりっ子はかわいそうだから
彼女はいつも優しく僕に微笑みかける
瞬きをするのを怖がるくらい
いつも瞳の中に、小さな僕をつかまえようとしている
そして彼女は子供たちにこう言うんだ
ママはパパを世界一好きなのよって、永遠に…
異常者にも思えた藤村だが、その想いは実はとてもピュアであることがわかる。
ただ純粋に愛されたかっただけなのだが、藤村は自己愛が強いせいか、この世の愛情がすべて偽物のように思えたのかもしれない。
[10話]
僕はね、相沢直子を愛してたんですよ
愛すれば愛するほど、彼女の僕への想いとの隔たりを感じて、苦しんだ
正気じゃなくなっていくのが、自分でも分かるほどにね
人間はね、本気で人を愛すと狂いますよ
理性やモラルなんて、何の歯止めにもなりません
例外なく人間はね
[10話]
君もやっぱりそうだった
僕のことを、本当には愛してはくれなかった…
今までもずっとそうだった…これからも…
先生…女の子は、もっとちゃんと好きになるよ
男より、ずっと真剣してるよ
このセリフから感じられるのは相手との隔絶感。
いくら誰かを愛しても、愛し返してくれる保障はない。
自分が真剣になっても、相手が真剣になるとは限らない。
こんなにも愛しているのに、なぜ分かってくれないのか。
そんな、恋愛における根源的な葛藤が、藤村を通して描かれていたかもしれない。
表面的な愛情では満足できずに、いつしか間違った方法で愛を求めた藤村。
自己愛が強いがゆえに他者を操ろうとするテーマは、同じ野島伸司作品の「世紀末の詩」8話に引き継がれている。