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「高校教師」誕生秘話とTBS野島三部作について(伊藤一尋Pのコメント)

TV雑誌掲載記事より抜粋 (記事提供:サクサチさん)


野島くんと初めて会ったのはもう10年以上も前のことなんですが、その後、彼はフジテレビのシナリオ大賞で大賞を取って、「101回目のプロポーズ」とか、ずっとフジの仕事が続いていましてね。 そんな状況でしたから、まあ、飲みに行った先で顔を合わせることはあっても、その当時はほとんど音信不通だったんです。

ところが、ある日突然、野島くんから電話がかかってきたんです。 「TBSの”金ドラ”で書いてみたい」と。 ”金ドラ”というのは、ウチの金曜10時ドラマ枠のことで、「想い出づくり」とか「ふぞろいの林檎たち」とかを放送してきた”金ドラ”のテイストが、野島くんはもともと好きで、そういうものが書きたいと言うんです。 で、どんな話が書きたいのかを聞いたら、女子高生と教師が恋愛する話だと…。 電話をもらって、僕としてもすごく嬉しかったし、編成部も「野島さんなら」と大喜びで。 これが、「高校教師」が生まれる最初のきっかけでした。

内容を煮詰める段階になって、野島くんが「女の子に十字架を背負わせたい」と言い出したんです。 でも”近親相姦”という言葉を聞いたときは、生理的に嫌悪感が走りましてね。 2時間ぐらい電話でやりあって、それから2日ぐらい考えました。 もう一度、野島くんと話したときに「刺激を求めてそういうプロットにしたんじゃない、ギリシア神話みたいなものをイメージしているんだ」って言われて、それだったらわかるような気がしたんです。

「高校教師」は、非常に完成度の高いドラマだったと思ってますが、それはとにかくまず脚本がよかったからです。 きちんと世界をつくってましたからね。 毎回、読むのが楽しみでしたし、あのドラマは、撮影に入る前に最終話まで台本が書き上がっていたんですよ。 そして、全部書き上がっていたから、後に書いたことで前に書いたこととリンクしてないようなところは、全部手を入れて直してるんです。 それは、野島くんひとりの裁量ではなく、演出の鴨下さんだとか、吉田健さん、森山くん、みんなが入って、現在の連続ドラマの制作事情において、こんなことは、極めて珍しいことなんです。

僕は”畏れ”ということばを知っている人間は、いい仕事をすると思ってるんですが、あの脚本を読んだとき、その出来に演出家も俳優もみんなが”畏れ”をもった…。 そういう”畏れ”をもたせる脚本というのは、読んだ者に、手を抜いたり適当に流したりすることをできなくさせるんです。 それだけすばらしかった。 そして、その脚本がすばらしいということを感じられるスタッフが、役者がまたすばらしい。 それを感じることのできる人たちだったから、そらにドラマとしての完成度を高めることができたんだと思います。

野島くんの言うギリシア神話みたいな感じというのは、今までテレビドラマにはあまり持ち込まれてなかったもので、僕自身もひかれました。 そして、彼はすごくスケールの大きい作家だ、と思いましたね。 ギリシア神話的な、というのは野島三部作すべての根っこにあるもので、描かれているのは、みんな非常に普遍的なことです。

「高校教師」では人を愛するとはどういうことかを、「人間・失格」ではあんなふうに息子をいじめ殺されたら人はどうするだろうかというようなことを、「未成年」では少年たちの純粋さ=未熟さと彼らの友情を…。 本来、人間がもっている部分、そしてもっていて欲しいと思うような部分です。

僕はこれを”新古典主義”と言ってるんです。 つまり、ギリシア神話だとかシェークスピアだとかをイメージする”古典”があって、そこに根本的に変わらない人間というものがある。 それを古典のままやるのではなく、いまドラマでやるということ。 それが、彼が”金ドラ”という他局にないテイストの枠でやりたいことの原点であり、そこに彼がTBSでやる意味がある。


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