子供の頃、クリスマスにサンタが贈り物をくれたわ
もちろん本当は変装したパパっだって気付いてた
けど嬉しかった
だから幸せよ
たとえあなたの気持ちが、本物じゃなくても…
第五章のハーブ:ラベンダー
花言葉:私にこたえて
いつまでもいつまでも幸せな時が続くと思うほど、私も子供じゃなくなっていた
だけど押し寄せるその不安よりもむしろ、心はとても穏やかだった
不思議な力が沸き起こる
いつまでもいつまでもあなたを想う、私の力…
圭子は私の子供ではない
圭子は私の子供ではないのだ…
そのことは、私の心の淵に深く沈めた…
それでもいいとすら思ったんだ
いつか私も夫として愛されるだろうからと、祈るように勧めた
しかし、愚かな祈りだと聞か知らされた
墜落した飛行機の旅客名簿を確認させられた時すべてを…
彼女の隣の席に、死に逝く最期の時さえも神山といたんだ
私は長い間、妻に裏切られていたんだ…
とてもとても長い間…
あなたの幼い頃のトラウマが、あなたの人格を歪ませている
おそらくあなたは見たはずだわ
父親の、母親に対する暴力の限りを
その暴力を絶望的に嫌悪したわね
父親を心から憎んだ
確かに、俺の親父は飲んだくれのクソったれだった
そう、あなたは母親を守ろうとする優しい少年だった
それなのにある日、あなたの母親はあなたを捨てて出て行った
取り残されたあなたは、もはや誰からの愛情も受けられず
ただ暴力を憎むことだけが、深く深く刻まれた
警察官を職業に選んだのもそう
理不尽な暴力から善良な人々を守るために
だけどその一方で、あなたは愛を知らない
本当は誰よりも愛し愛されたいと願っていたのに
いつかあなたは父親のように、暴力が支配する蛇になってしまった
可哀想に…あなたは愛情を入れるポケットが破れているの
私が縫ってあげるわ、二度とコブラにしないよう
私にはセージのような恋はできない
死んでしまったら、その人には二度と会えないから
だけどミンタにはなれる
たとえ草に変えられても、優しい愛の香りを送ってあげるわ
いつまでもあなたの傍で…
第六章のハーブ:セージ
ローマ時代から万病に効く薬草として多用されてきた
あと、感覚と記憶力を研ぎ澄ますという
オークの木の中に住む森の妖精セージは、人間に恋をしてしまう
相手はしかも国王だった
国王もセージを愛した
しかし、灼熱の恋は命と引き換えにしなければならないのが森の妖精の宿命だった
セージは国王に抱きしめられると、とたんに炎に包まれて燃え尽きて消えた
激しい恋だ
ミンタの静かな愛とはまた違う
祥子もそういう女だった
長い間、私は誰でもなかった
そしてついには、自分の顔まで変えて逃げている
そんな自分にはもううんざりだ
幸せになりたいのなら
あなたと幸せになれるのなら…
もう決して逃げたりしない
みゆき…僕はこれから先、君を失うことはできそうにない
たとえば僕の命の明かりをこの暗闇にたやすく溶かすことはできても、愛してる…
第七章のハーブ:フォックスグローブ
アイルランドの伝説に嫌われ者の妖精の話
陰湿で悪意に満ちた、悪戯が過ぎるその妖精は
周囲に嫌われ友達もなくいつも一人ぼっち
するとますますイジけて、他の妖精たちを傷つけるように
それを見かねた神は、二度と悪戯のできないように遠く離れた山に連れて行き、その花に変えてしまったんです
その花が美しいのは、せめてもの神の恩情
私の体が水に浮かんでいました
まるで妻が飛行機事故で亡くなったというあの連絡があった日のように、現実感のない…
しかし一方で、まぎれもない結論を出されていたあの日と同じ
もう、永遠に愛されることもないと知り
水の中に浮かんだ、あの日のように…
私は他人を悪く言う人間や、他人と争う行為自体が苦手だ
そこから生まれる虚栄や卑屈さに近寄りたくはない
交わらないことで孤独を味わうとしても…
子供の頃からそうだった
しかし、生まれて初めて他人に怒りを感じる
君に怒りを
第八章のハーブ:アイブライド
ワインに浸したり、お茶に落としたりすると穏やかな香りが
目の病気にも効くと言われています
昔、盲目だが気立ての優しい少女がいました
ある日山で、杖をついてキノコなどを集めていると
優しい香りのするこの花に出会ったんです
しかしその花は、触れるだけで全身が腫れてしまう毒草でした
それを見ていた森の神様が、すんでのところで毒を取り除き、目の病に効く薬草に変えたんです
私には、まだ越えなくてはならない想いがそこに残っていました
亡くなった妻への、忘れ難い想いです
しかし一方で、彼女を手放すことももはや不可能でした
私の心は同時に二人を…愛していました
次郎…どうして奥さんのことぶったの?
女の人に愛されたかったら、ごめんね…と、ありがとう、だよ
もうこれ以上、迷惑はかけられない
このことだけじゃなくて、これから先もずっと、先生を苦しめたくはないの
先生は奥さんを愛している、今も…
そして、奥さんも先生を愛していたのね
だから私の顔を見る度に、きっと先生は苦しむと思う
裏切ったのは奥さんじゃなく、自分の方だったと
このコピーの顔を見る度に
先生はいつか夢を見ていたと言ったよね
だけど、ほんとはあたしの方が夢を見ていた
きれいなハーブたちに囲まれて
つかの間だったけど、あなたに愛される夢を…
次郎だってかわいそうだよ
次郎はどうしたら愛されるか分からないんだ
誰かに教えてもらわなきゃ、どうしたらいいか分からないじゃない…
来てくれて嬉しいよ
信じていたからね
結局は俺に戻ってくれるって
ありがとう
お前には苦労かけたよ
今までのこと、すべて謝りたいんだ
…ごめんね
わかるかい
愛ってのは、ごめんねと、ありがとうってヤツなんだよな
第九章のハーブ:グリーンアロー
発汗を促して解熱効果がある
ビタミンとミネラルが豊富で、特に鼻血を止める薬として有名だ
また、役に立つとも言われている
そっちは恋占いに使われていたんだ
呪文はね、確か…
グリーンアロー、グリーンアロー、白い花を咲かせる花よ
もしも彼が私を愛するならば
私の鼻から真っ赤な血を流しておくれ
こんな優しい夕日の中では、まどろむように見つめていたい
愛する人よ、愛する人よ
私は君に差し出せる何かを、まだ持っているだろうか
憎しみや嫉妬でなく
まして同情でも諦めでもない
君に差し出せる、美しい何かを…
先生…私を撃って、今すぐ私を殺して
なぜだ!
先生を愛してるの…
俺がおまえを殴ったからか?だけど…
そうじゃない…次郎ちゃんがあたしを愛してないって感じたからだよ
愛してるよ、今だって…
それは愛じゃないよ
うるせぇ!だったら何が愛だ
愛は生きてるんだ
だから、穏やかな眠りや、思い合う優しさがなければいつか死んでしまうんだ
先生は奥さんを愛してるのよ
そして祥子さんも先生を愛してたのよ
あたしのことなんて…
放ってはおけないよ
私は他人と何かを争ったり、憎み合うことが苦手だった
愛する人も、生涯にただ一人いればいいと
いいのよそれで…
違う…
私は、自分で自分を許すことができなかったんだ
祥子を愛してる
しかし一方で、比べようもなく、みゆき…君のことを…
君のことを…愛しているんだ
たとえば綿帽子が南風に吹かれて飛んでも
またあなたの元に黄色い花を咲かせるの
何度も繰り返し…あなたを愛するわ
最終章のハーブ:ダンディライオン
この西洋タンポポはダンディライオンと言うんだ
インディアンの民話の中では、太陽に似せて作られたものとされている
南風のシャワンタゼーは、ある日野原の中で黄色い髪の少女と出会い、一目で恋をしてしまう
しかしある朝、いつものように彼女に会いに行くと、そこには別人のような彼女の姿があった
北風が無残にも彼女を、老婆のような変わり果てた姿に変えてしまったんだ
灰色の綿帽子をかぶった哀れな少女…
シャワンタゼーは失意の深いため息をついて、白い髪を遠くへ飛ばしてしまった
それから季節が変わると、彼は再び黄色い髪の少女たちを目にすることはあったが、初めて出会った彼女はどこにもいない
シャワンタゼーは再び孤独の中で、彼女を想いため息をついている
…私はシャワンタゼーのようにはなれなかった
いつしか孤独に耐えられず、君という別の黄色い髪の彼女を…
いずれ来るだろう、彼女の苦しみに気づきもせず、私は…私は…