美しい人TOP 野島伸司カタルシス
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名セリフ #01][#02][#03][#04][#05][#06][#07][#08][#09][#10
―― 京助
―― みゆき
―― 次郎
―― 朝美
―― 圭子
―― 純

第一章 ミントの出会い

私は静かな暮らしを好みます
子供の頃からきっとそうです
他人と何かを争ったり
もっと単純に、悪口を言ったり憎み合ったりする…
そういった人達が苦手なんです
欲望や自己顕示欲から離れて
愛するものは少なくていい
荒々しく吠える野生動物よりむしろ
静かに酸素を送る、そう、このハーブ達のように…
美しい人間でありたい

第一章のハーブ:ミント
冥界の支配神プルトンに愛された海の妖精ミンタ
プルトンの妻の嫉妬で草に変えられてしまったんです
ミンタはそれでもなお、透き通るような愛の香りを残した

花言葉:美徳

第二章 ローズマリーの夜

自分でも理由は分からない
当に忘れていたあの不思議な気持ちが
かすかに甦ったような気がしました
どこか面影を、亡くした妻に似せたせいでしょうか
あの不思議な気持ちが一瞬かすかに…
心がざわめく、あの甘い響き…

花、パパは花とか植物が大好きなの
女の人も花だって言ってた
男は枯れても生きていけるけど、女はそうじゃないって
かわいらしくて、哀しい花みたいだって

第二章のハーブ:ローズマリー
俗にはロスマリン
海のしずくという意味がある
船が迷った時に、この香りを感じて自分の居場所を知った
そういう由来がある
魔除けにも使われている
クリスマスにはよく、教会とか家の柱に…

花言葉:あなたは私を蘇らせる

第三章 レモンバームの王子様

いつか、愚かな夢を抱いていたのかもしれません
妻にどこか似たこの若い彼女と、もう一度穏やかな暮らしをと…
風が吹けば飛ぶような、いつか儚い夢を…

ひょっとしたら…男がいるのかもしれないな
そんな事ないよ。愛されてるんだから絶対戻ってくるって
勘だよ、刑事の勘ってやつさ
もし、そういう人が一緒にいたら?
おまえならどうする?
あたしなら諦めちゃうな、もういいやって
俺は違う
じゃあどうするの?
殺すよ
…どっちを?
二人ともさ
それが愛ってやつだろ

たとえばたわいもない事でケンカして、あたしがこのカップをバンって投げるの
外は雨が降ってるのに、あたしは裸足のままで飛び出していく
そして王子様も裸足で追いかけてくる
毎日じゃない、時々そういう事があると幸せに思うの
あぁ、人生は素晴らしいって…

第三章のハーブ:レモンバーム
シソの一種でね、頭をすっきりさせる
風邪をひいた時にもいい
中世のウェールズ地方の王子がよく飲んでいたと言われる
ルレウェリン王子と言ったかな
毎朝飲んでいたから108歳まで生きたらしい

花言葉:思いやり

第四章 ボリジの恋占い

ある意味当然のことかもしれませんが
平穏だった私の心の泉が、かすかにざわめいていたのです
もちろん、一方での歯止めをかけながら…
その花にふれてはいけない
その花は私のものではないのだから
ただ静かにそっと、見守るだけの…

たとえばその人が寂しいからおじさんに会いたいと思っても、それは利用してるわけじゃない
ほら、砂山に棒立てて、両手でいらないものから取ってくの
退屈だとか寂しいとかなんとかも全部
そうするとやっぱり、最後に残るのが喋り出しちゃう
会いたい、って…

第四章のハーブ:ボリジ
勇気をもたらすという意味がある
あと湿疹とか皮膚病にいいとされてる
昔、恋に悩んだ若い女性が占いに使っていたらしい
高いところからポトンと落として、この花がどう動くかで占う
つまり、落ちた場所でそのまま留まっていたら、ハッピーエンド
揺れて隅の方に流されれば、不安定な心を表す

花言葉:あなたは鈍感な人ね

第五章 ラベンダーの想い出

もどっておいで
その時々に生きていた、私の過去のカケラたち
ひとつ…ふたつと、今の私に勇気をちょうだい
あなたはもう一度、恋することができるよと…

あたしが脅えてたのは、きっといつも自分を見失ってたからなんだ
先生があたしの岬
暗い海から、あたしを導いてくれる人

諦めなさいよ…私があなたを癒してあげるわ
わかるの、あなたのその蛇のような冷たい目
心の奥はきっと違う、とても愛情に飢えてるはずよ
しかも求めてるのは母親の愛
だからあなたは女を恐怖で縛るけど
ほんとはあなた自身が服従したいと思ってる
強い母性に守られながら子供のように眠りたいと
けれどあなたは反対の事をする

子供の頃、クリスマスにサンタが贈り物をくれたわ
もちろん本当は変装したパパっだって気付いてた
けど嬉しかった
だから幸せよ
たとえあなたの気持ちが、本物じゃなくても…

第五章のハーブ:ラベンダー

花言葉:私にこたえて

第六章 セージの秘密

いつまでもいつまでも幸せな時が続くと思うほど、私も子供じゃなくなっていた
だけど押し寄せるその不安よりもむしろ、心はとても穏やかだった
不思議な力が沸き起こる
いつまでもいつまでもあなたを想う、私の力…

圭子は私の子供ではない
圭子は私の子供ではないのだ…
そのことは、私の心の淵に深く沈めた…
それでもいいとすら思ったんだ
いつか私も夫として愛されるだろうからと、祈るように勧めた
しかし、愚かな祈りだと聞か知らされた
墜落した飛行機の旅客名簿を確認させられた時すべてを…
彼女の隣の席に、死に逝く最期の時さえも神山といたんだ
私は長い間、妻に裏切られていたんだ…
とてもとても長い間…

あなたの幼い頃のトラウマが、あなたの人格を歪ませている
おそらくあなたは見たはずだわ
父親の、母親に対する暴力の限りを
その暴力を絶望的に嫌悪したわね
父親を心から憎んだ
確かに、俺の親父は飲んだくれのクソったれだった
そう、あなたは母親を守ろうとする優しい少年だった
それなのにある日、あなたの母親はあなたを捨てて出て行った
取り残されたあなたは、もはや誰からの愛情も受けられず
ただ暴力を憎むことだけが、深く深く刻まれた
警察官を職業に選んだのもそう
理不尽な暴力から善良な人々を守るために
だけどその一方で、あなたは愛を知らない
本当は誰よりも愛し愛されたいと願っていたのに
いつかあなたは父親のように、暴力が支配する蛇になってしまった
可哀想に…あなたは愛情を入れるポケットが破れているの
私が縫ってあげるわ、二度とコブラにしないよう

私にはセージのような恋はできない
死んでしまったら、その人には二度と会えないから
だけどミンタにはなれる
たとえ草に変えられても、優しい愛の香りを送ってあげるわ
いつまでもあなたの傍で…

第六章のハーブ:セージ

ローマ時代から万病に効く薬草として多用されてきた
あと、感覚と記憶力を研ぎ澄ますという

オークの木の中に住む森の妖精セージは、人間に恋をしてしまう
相手はしかも国王だった
国王もセージを愛した
しかし、灼熱の恋は命と引き換えにしなければならないのが森の妖精の宿命だった
セージは国王に抱きしめられると、とたんに炎に包まれて燃え尽きて消えた
激しい恋だ
ミンタの静かな愛とはまた違う
祥子もそういう女だった

第七章 フォックスグローブの罠

長い間、私は誰でもなかった
そしてついには、自分の顔まで変えて逃げている
そんな自分にはもううんざりだ
幸せになりたいのなら
あなたと幸せになれるのなら…
もう決して逃げたりしない

みゆき…僕はこれから先、君を失うことはできそうにない
たとえば僕の命の明かりをこの暗闇にたやすく溶かすことはできても、愛してる…

第七章のハーブ:フォックスグローブ

アイルランドの伝説に嫌われ者の妖精の話
陰湿で悪意に満ちた、悪戯が過ぎるその妖精は
周囲に嫌われ友達もなくいつも一人ぼっち
するとますますイジけて、他の妖精たちを傷つけるように
それを見かねた神は、二度と悪戯のできないように遠く離れた山に連れて行き、その花に変えてしまったんです
その花が美しいのは、せめてもの神の恩情

第八章 アイブライドの涙

私の体が水に浮かんでいました
まるで妻が飛行機事故で亡くなったというあの連絡があった日のように、現実感のない…
しかし一方で、まぎれもない結論を出されていたあの日と同じ
もう、永遠に愛されることもないと知り
水の中に浮かんだ、あの日のように…

私は他人を悪く言う人間や、他人と争う行為自体が苦手だ
そこから生まれる虚栄や卑屈さに近寄りたくはない
交わらないことで孤独を味わうとしても…
子供の頃からそうだった
しかし、生まれて初めて他人に怒りを感じる
君に怒りを

第八章のハーブ:アイブライド

ワインに浸したり、お茶に落としたりすると穏やかな香りが
目の病気にも効くと言われています
昔、盲目だが気立ての優しい少女がいました
ある日山で、杖をついてキノコなどを集めていると
優しい香りのするこの花に出会ったんです
しかしその花は、触れるだけで全身が腫れてしまう毒草でした
それを見ていた森の神様が、すんでのところで毒を取り除き、目の病に効く薬草に変えたんです

第九章 グリーンアローの鮮血

私には、まだ越えなくてはならない想いがそこに残っていました
亡くなった妻への、忘れ難い想いです
しかし一方で、彼女を手放すことももはや不可能でした
私の心は同時に二人を…愛していました

次郎…どうして奥さんのことぶったの?
女の人に愛されたかったら、ごめんね…と、ありがとう、だよ

もうこれ以上、迷惑はかけられない
このことだけじゃなくて、これから先もずっと、先生を苦しめたくはないの
先生は奥さんを愛している、今も…
そして、奥さんも先生を愛していたのね
だから私の顔を見る度に、きっと先生は苦しむと思う
裏切ったのは奥さんじゃなく、自分の方だったと
このコピーの顔を見る度に
先生はいつか夢を見ていたと言ったよね
だけど、ほんとはあたしの方が夢を見ていた
きれいなハーブたちに囲まれて
つかの間だったけど、あなたに愛される夢を…

次郎だってかわいそうだよ
次郎はどうしたら愛されるか分からないんだ
誰かに教えてもらわなきゃ、どうしたらいいか分からないじゃない…

来てくれて嬉しいよ
信じていたからね
結局は俺に戻ってくれるって
ありがとう
お前には苦労かけたよ
今までのこと、すべて謝りたいんだ
…ごめんね
わかるかい
愛ってのは、ごめんねと、ありがとうってヤツなんだよな

第九章のハーブ:グリーンアロー

発汗を促して解熱効果がある
ビタミンとミネラルが豊富で、特に鼻血を止める薬として有名だ
また、役に立つとも言われている
そっちは恋占いに使われていたんだ
呪文はね、確か…
グリーンアロー、グリーンアロー、白い花を咲かせる花よ
もしも彼が私を愛するならば
私の鼻から真っ赤な血を流しておくれ

最終章 ダンディライオンの愛

こんな優しい夕日の中では、まどろむように見つめていたい
愛する人よ、愛する人よ
私は君に差し出せる何かを、まだ持っているだろうか
憎しみや嫉妬でなく
まして同情でも諦めでもない
君に差し出せる、美しい何かを…

先生…私を撃って、今すぐ私を殺して
なぜだ!
先生を愛してるの…
俺がおまえを殴ったからか?だけど…
そうじゃない…次郎ちゃんがあたしを愛してないって感じたからだよ
愛してるよ、今だって…
それは愛じゃないよ
うるせぇ!だったら何が愛だ
愛は生きてるんだ
だから、穏やかな眠りや、思い合う優しさがなければいつか死んでしまうんだ

先生は奥さんを愛してるのよ
そして祥子さんも先生を愛してたのよ
あたしのことなんて…
放ってはおけないよ
私は他人と何かを争ったり、憎み合うことが苦手だった
愛する人も、生涯にただ一人いればいいと
いいのよそれで…
違う…
私は、自分で自分を許すことができなかったんだ
祥子を愛してる
しかし一方で、比べようもなく、みゆき…君のことを…
君のことを…愛しているんだ

たとえば綿帽子が南風に吹かれて飛んでも
またあなたの元に黄色い花を咲かせるの
何度も繰り返し…あなたを愛するわ

最終章のハーブ:ダンディライオン

この西洋タンポポはダンディライオンと言うんだ
インディアンの民話の中では、太陽に似せて作られたものとされている
南風のシャワンタゼーは、ある日野原の中で黄色い髪の少女と出会い、一目で恋をしてしまう
しかしある朝、いつものように彼女に会いに行くと、そこには別人のような彼女の姿があった
北風が無残にも彼女を、老婆のような変わり果てた姿に変えてしまったんだ
灰色の綿帽子をかぶった哀れな少女…
シャワンタゼーは失意の深いため息をついて、白い髪を遠くへ飛ばしてしまった
それから季節が変わると、彼は再び黄色い髪の少女たちを目にすることはあったが、初めて出会った彼女はどこにもいない
シャワンタゼーは再び孤独の中で、彼女を想いため息をついている
…私はシャワンタゼーのようにはなれなかった
いつしか孤独に耐えられず、君という別の黄色い髪の彼女を…
いずれ来るだろう、彼女の苦しみに気づきもせず、私は…私は…


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