Name:議運
| | 過去ログに埋もれていた名作を復活させました。
世界の中心で・・春夏秋冬 そして春 Name:じゅんいく
山が海の目前まで迫っている海岸線を一本の国道が通っている。 時には日本でも有数の保養地を時には小さなごくありふれた港町をその国道は 街から街へと生命を繋ぐ大動脈の様に片側には山を片側には海を従えながら素晴らしい景観の中を街と街との生命を繋いでいる。 少年の生まれ育った街はそんな街と街との間にともすれば通り過ぎてしまうような 小さなごく平凡な港町である。
防波堤を走る一人の少年。 少年の後ろには山の緑が生命の強さを誇っているかのごとく葉をおおい茂らせ 海へと流れ込む川はその力強い生命から溢れ出た豊富な水で川の周りの田んぼをこれまた輝かしい緑色に染めこの地を誇らしげに見せている。
少年は防波堤の先まで来ると誰かを探している様に辺りを見ましている。 その時誰かが少年の肩をたたいた。 少年が振り返ろうと後ろに顔を向けたとき少年の頬になにかかが当たった。 細くて長い綺麗な少女の人差し指である。 「ん・・・」 すると少年の死角からまるでおどけた天使の様に少女が顔を出した。 なんだかとても懐かしいようなそれでいていつも見ていたようなそんな不思議な 感覚に少年はなっていく。しかしそんな少年にお構いなしにその天使は問いかける。 「びっくりした?」 その瞬間 少年のそんな不思議な感覚は跡形もなく消えてなくなり少女にそう問われる 事が日常のごく当たり前の風景になっていた。 「すごく」 笑顔でそう答える少年。 それから少年と少女は少し寄り添いながら海の先を見つめそして今少年が走って来た 方へ手を繋ぎながら歩いていく。いつも そう 毎日そうやって手を繋いで歩いている 恋人の様に。
「楽しかった?頑張ってきた?」 少女は屈託のない笑顔でそう少年に尋ねる。 「うん 楽しかったよ、一生懸命頑張ってきたよ」 笑顔で答える少年。その少年の顔はそんな短いやりとりが幸せでたまらないといった感じである。 「そう 楽しかったんだ、頑張れたんだ」 少女は満足そうにその少年の言葉を繰り返した。 そして空に架かる虹を見ながら少年に聞こえないようにつぶやいていた 「私も楽しかったわ。私って本当に幸せ者だと思う 考えてみたら全部楽しい思い出だった。 いつも元気で大きな声で笑ってくれた智世。 私を好きになってくれて辛い時も私達の為に一生懸命になってくれたボウズ。 かっこつけでとても優しくていつも私たちを支えてくれていたスケちゃん。 どんな時も凛としていていつも変わらぬ態度で接してくれた谷田部先生。 私に対してもありのままの気持ちをぶつけてくれて本気で励ましてくれた 貴方のお母さん、それを暖かく見守ってくれた貴方のお父さん。 いつも優しくどんな時も私の味方になってくれたお母さん、夢島の時も 結局わたしの味方になってくれたよね。 いつも厳しく頑張ればかり言っていたお父さん、でもお父さんは本当に 私の事を大事にしてくれていたんだよね、厳しさの中にある優しさが とても嬉しかった、私達の結婚写真を撮る為に頭をさげて お願いしてくれたんだよね。 そして人を好きになることの幸せを教えてくれた私の大好きな貴方。 貴方は優しくて気が利いてでもどこか間が抜けていて でもいつも私の事ばかり考えていてくれたよね ヤキモチを焼いてくれたり 私の為に全てをかけて頑張ってくれたよね。 私はきっと貴方に出会うために生まれてきたんだよ。」 少女は虹を見ていた顔を少年の方に向けなにかを思いつたように 「良かったね、でも来るのが早すぎたんじゃない? お父さんが怒ってたよ、あいつはもう来たのか!頑張りが足りないんだ もっと頑張れただろって言ってたよ。」 にこにこしながら少女はそう少年に言った。 「エッ・・・・・」 その言葉を聞いた少年はさっきまでの笑顔はかんぜんになくなり 急にオドオドしはじめた。 そんな少年の様子を見た少女は声をあげながら笑い出した。 「嘘だよ、可笑しいな〜まだうちのお父さんのこと苦手なの?」 そういって満面の笑顔で少年の顔を覗き込む。 「もう・・・本当にそういうところイジワルだよね、全然変わらない」 そう言いながら少年は思い出していた。 でも思い出すのは少女の怖い父親ではなく、とても優しくまるで自分の 本当の父親のように感じた時の顔だった。 その時少女の父はこう言ってくれたんだ。 「よく頑張ったなぁ人の生死を扱う仕事は辛かっただろう もう十分だ ありがとう」 そう言って少女の父は自分に頭を下げてくれたんだ。
その夜僕は久しぶりに彼女へのテープを吹き込んだんだ。 「こんばんは松本朔太郎です。・・・・ 今日 亜紀のお父さんに会ってきました、長い間顔も見せずに失礼をしていた僕を亜紀の お父さんは以前と変わらぬ態度で接してくれそして僕に「ありがとう」と言ってくれたんだ。 僕は今日まで亜紀を死なせてしまった事を、亜紀が死んでしまった事を思い出さない日はなかったけど それでも今日は100回思い出していたのに明日には99回明後日は98回と減っていって終には一回も 思い出さない日がいつか来るんじゃないかと思えて亜紀を見送ることが出来なかったんだ。 でも亜紀のお父さんは「忘れたいのでも、忘れないのでもなくてね、人間は忘れていくもんだ」 そう言ってくれたんだ。今日僕は初めて亜紀が死んでいった事を自分の中に入れることが出来たんだよ。
亜紀 そちらはどうですか?僕が走り終わったその時 亜紀に会えるかな? 君に笑って会えるかな?亜紀。」
昔を思い出した朔太郎は自分の顔を覗き込んでいる亜紀に言った。 「ごめん亜紀・・・・。」 「えっ どうしたの?」 不意に自分に向かって謝った朔太郎に驚きながら尋ねる。 「俺亜紀に謝らなければいけない事があるんだ」 そう言うと真剣な顔で亜紀を見つめなおす。 真剣顔つきの朔太郎に少し戸惑いながらも気にしてない素振りで問い直す。 「なに?浮気でもしてたの?明希さんのことだったらいいんだよ。」 朔「そうじゃなくて・・。」 亜紀「うん」 朔「俺、ずっと一緒にいるって言ったのに、ずっと傍にいるって言ったのに、 亜紀の夢をかなえる手伝いをするって言ったのに」 亜紀「うん・・・それから?」 朔「二人で子供と手をつないで歩いていきたいって言ってもらったのに」 亜紀「うん・・・それから?」 朔「そんな幸せな日々を過ごしたいって言ってもらったのに」 朔太郎の頬に涙が流れていく 亜紀「うん・・・それから?」 優しくうなずき朔太郎を見つめる、まるで子供を慈しむ母親の様に。 朔「何一つ叶えてあげられなくて」 亜紀「うん」 朔「それに俺 死のうとしたし・・・・」 亜紀「バカ!」 朔「うん 俺馬鹿だった ごめん」 朔太郎の話を聞いた亜紀は下を向いたままの朔太郎から少し離れて、そして振り向き 「もう しょうがないな〜」 「でも、私の為に頑張ってくれたんでしょ?私の為に泣いてくれたんでしょ?」 朔「・・・・・・・・・・・・・・・・」 俯いたままの朔太郎。 亜紀「えっ ちがうの?」 少し脹れた様な怒ったような声で問い詰める亜紀。 亜紀のそんな声を聞いて慌てて朔太郎が言い返す。 「いや・・、ちがうんだ、そうじゃなくて・・、」 亜紀はそれでも 「じゃぁなに?なにが違うの?」 そう言いながら尚も問い詰める亜紀、でもそんな亜紀の顔はふて腐れたようなでもどこか笑っている そんな顔をしていた。 「いや あの 」 そんな亜紀の様子を見て慌てる朔太郎。 亜紀のふて腐れているような怒っているような声を聞いただけで亜紀の瞳の奥にみせる 笑顔には気づかないでいた。 亜紀はそんな朔太郎が少し可哀想になったのか優しく言った。 「うん?」 亜紀のそんな優しい「うん?」に導かれるように続きを話し出す。 「亜紀の為に泣いていたのか、悲劇のヒーローになったつもりでいたのか 当時の俺にはよくわからなくなっていたんだ」 「悲劇のヒーロー?」 そう言いながらいつの間にか横に並んだ朔太郎の顔を覗き込む亜紀 「うん」 そう返事をしたまままだ俯いている朔太郎だった。 「まっいっか」 そう言うと亜紀は朔太郎の方を向いていた体を街に向け歩き出した。
街へと向かって歩いていく亜紀の背中に向かって 朔太郎は心のなかでつぶやいていた。 「あのころ世界中のどんな高価な宝石よりも亜紀は輝いていたそれが僕の世界の全てと言っていいくらいに輝いていたんだ。 だけどたった一つの死によってそれは砕け散り鋭い刃物の様なガラスの破片となってしまったんだ、でも僕はそれを手放さずずっと心の中に仕舞い込んでいたんだ、それが僕の心をどんなに傷つけ 血だらけにしようとも、いや僕はむしろそれを望んでいたのかもしれない、心からどんどん血を流し心を殺してしまおうとしたんだ。 でも心からどんなに血をながそうとも心を殺してしまっても僕は生き続け亜紀との距離は開いていくだけだったんだ、 開き続ける亜紀との距離に生き続けていく自分の現実にあのころの僕は耐えられなかったんだ。 だから僕はあんな行動をとってしまったんだよ 亜紀。」
背を向け歩き続ける亜紀に向かって朔太郎はそうつぶやいていた。
「私も朔ちゃんに謝らなければいけないことがあるんだ」背中を見せたまま朔太郎の顔を見ずに亜紀が言った。
「エッ! なに?」 とたんに不安になる朔太郎。 亜紀の背中を見ながら頭の中で色々な想像が駆け巡る。浮気?他に好きな人が出来た?
そんな朔太郎の不安そうな視線を感じた亜紀は朔太郎の顔を見ずに言った。 「彼女が彼氏に謝らなければいけないことなんて一つしかないでしょ」
朔太郎の不安は絶頂に達した、 やっぱりそうだ、誰か他に好きな人が出来たんだ。 そうなんだやっぱり長すぎたんだ、 亜紀の元に帰ってくるまで 時間がかかりすぎたんだ、 やっぱりあの時亜紀の元に行くべきだったんだ。 あの海で亜紀の元に行くべきだったんだ。
亜紀は朔太郎の方に向きなおし言った。 「ごめんね朔ちゃん、本当にごめんね」 亜紀の眼から涙が零れる。 「これからもずっと手を繋いで歩いて行こうってって言ったのに私が朔ちゃんの手を引いて朔ちゃんが子供の手を引いて歩いていけたらって言ったのに、それなのに朔ちゃんに 辛い思いばかりさせてしまって。 何一つ朔ちゃんにしてあげられなくて、 ごめんね朔ちゃん」 亜紀は体を震わせ今まで仕舞い込んでいた気持ちを 吐き出した。
「亜紀・・・」 亜紀は解っていたんだ、 朔太郎には掛ける言葉がなかった。 言葉を掛ける代わりに亜紀に歩み 寄り抱きしめていた。
「松本君」 「松本君・・」 亜紀は朔太郎に抱きしめられながら言った。
「エッ?」 朔太郎は戸惑いながらそう言った。
「松本君・・」 「松本君・・」 そう言いながら朔太郎の背中に回す手に力が込められた。
「なんだよ広瀬」 戸惑いながら朔太郎も言い返す。
「松本君」亜紀 「なんだよ?」朔
「朔ちゃん」 「朔ちゃん」 そういうと朔太郎の背中に回す手になおも 力を込めた。
「なんだよ」朔 「朔ちゃん」 「朔ちゃん」 「朔・・・朔ちゃん」 なんども朔太郎の名前を呼ぶ。
「亜紀」 朔太郎も亜紀を抱きしめる手に力を込めて言った。
「前に朔ちゃんがなんども呼んでって言ったでしょ、 今度は私が呼びたいの サクチャン・・サク・・・」。
この名前が呼びたかった。 病気のことや将来のことなんかどうでもよかった ただこの名前がよびたかったんだ。 「好きよサクチャン、大好きだよ」。
未完
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...2007/05/26(Sat) 14:17 ID:ukUEmfLU
Re: 復刻版:世界の中心で・・春夏秋... Name:じゅんいく(ぶんじゃく)
| | 議運様 ありがとうございます、自分の筆不精の為に お手数お掛けしました。
最近変なヤカラが暴れている最中にとても 嬉しく思います、必ず続きを書きますので どうか懲りずに今後ともよろしくお願いします。
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...2007/05/27(Sun) 01:32 ID:NLeZK7CA
Re: 復刻版:世界の中心で・・春夏秋... Name:議運
...2007/09/29(Sat) 18:51 ID:IiRxmA9U
Re: 復刻版:世界の中心で・・春夏秋... Name:ぶんじゃく
| | 「ねぇ〜亜紀」 「なに?朔ちゃん」 「ここは天国なの? それとも・・・」 周りを見渡しながら亜紀に尋ねる
「何処だと思う?」 朔太郎を見上げるように亜紀が言った。
「う〜ん亜紀は天国なんか無いって言ってたし」 そう言うとまた朔太郎の中の時計がぐるぐると 逆周りしていく。
思い出していた、あの辛く絶望的な時を。 そう 亜紀は天国なんか無いと言っていた、 この僕腕の中で。 僕はそんな亜紀を抱えながらただ涙を流し何かにすがるように言っただけだった。 「タスケテ・・クダサイ タスケテクダサイ・・・」
亜紀を抱きしめながら朔太郎の心が語りだした
「僕はいつもそうだ なんにもしてあげられなくて いつも失敗ばかりで、それなのに 亜紀はいつも優しく僕を包んでくれた、おじいちゃんが死んだ時も優しく僕を包んでくれた 自分が病気で苦しんでいる時も僕に何もあげられるものが無いと言って泣いてくれた 二人の最後の時には僕の腕の中を天国と言ってくれた。 それなのに僕はいったい亜紀になにをしてあげられたのだろう。」
下を向いたまま顔をあげられなくなった朔太郎に亜紀は言った 「朔ちゃん 私ね 病気で何もかも無くしてしまったけど、 それでも最後に天国を感じることが出来たんだよ、 それって凄い事だと思わない? 私が生きてきた17年間、それから先の何十年間、何百・何千回と迎えるはずだった朝も 全て失ってしまったけど・・・それでもあの時朔ちゃんの腕の中で得ることの出来た天国。 私が病気になったことも、それまで流した涙も全てあの時に救われた気がしたの」
もう僕は何も言えなかった、ここが何処かなんてどうでもよかった 亜紀がいて 僕がいるそれでよかった。 下を向けたままだった顔を亜紀の方に向けた 「 亜紀 」
未完
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...2007/09/30(Sun) 00:12 ID:tNmATX4.