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脚本家・野島伸司が語るドラマ「未成年」に託す思い


TVガイド誌(95年10月20日号)掲載記事

デビュー当時の僕は、それこそ日本中の視聴者に好かれなければならない、好青年であらねばならないという思いが非常に強かったんです。 でも、視聴者とドラマの制作者というのは恋愛関係のようなもので、たとえ一部の人に嫌悪されても、僕の作品を支持してくれて、濃くわかりあえるような視聴者がいるんなら、それでいいんじゃないかと思うようになって…。

そのきっかけが「高校教師」の成功だったんです。 視聴率を取ろうと思うなら、広く支持されたほうが安全ですよね。 ただ、それではラブストーリーもトレンディードラマの域を出ないと思うんでよ。 完全にモラルに反する作品とか、低視聴率が続くドラマを作ったらプロのシナリオライターとして反省しなければならないんだけど、すべての人とわかりあえるはずもないし、しょせんテレビドラマなんだから、嫌なものを受け入れてくれなくてもいいと…。

そういう意味で、僕が心がけているのは、いかにキャラクラターを深く作るかということだけですね。 「高校教師」の時、伊藤一尋プロデューサーといっしょにたくさんの女子高生を取材したんですが、みんなよくしゃべるんですよ。 それで思ったのは、この子たちには魅力がないということ、だから、あまりしゃべらないヒロインを作ろうと決めて、"繭"という女の子が生まれたんですよ。 だからその時の取材は、逆説的な意味でいい取材でしたね(笑)。

僕は、設定の極端さで支持されているとは思ってないし、それで支持されようとも思わない。 第一、そういうあざといドラマって当たってないんですよね。 落ちだしたら止まらないし。 やっぱり本質がないといけないと思いますね。

「人間・失格」は(視聴率が)悪かった時もありましたけど、あれは意識的にこのドラマは見せない方がいい、という考え方が働いたんではないでしょうか、親たちに。 僕は、無視されたんじゃない、とむしろ好意的にとらえています(笑)。

いしだ壱成くんとは2年くらい前に出会ったんですけど、今回の「未成年」は、最初から彼の主役でいこうと決めていたんです。 彼以外に(役柄に)ふさわしい人材がまったく見当たらなかったんですよ。 ただ、以前の壱成くんは、言ってみれば夜8時代のイメージで、それじゃあちょっと軟弱だから(笑)。

それを払拭するためにもTBSさんの"金曜ドラマ"でやりたかったんです。 彼は、よく雑誌などで中性的な魅力がある、というように評されたりしていますよね。 でも、僕は全然そういう風にはとらえていなくて、むしろ男っぽいとさえ思っています。 しかも、外見的にはナイーブな感じもしますし、この作品でも、オーソドックスでいて、なおかつ翔んでくれそうだったから…。

(このシリーズはいずれも"学校"が舞台になっていますが、という問いに)僕は、生理的に若い世代が好きなんですよ。 さっき泣いてたやつが、次のシーンでは笑っているということが可能だから。 でも、そういう世代は、自分が受け入れられなかった時に限って、攻撃的になるというか、誰でも持っている残酷さを発揮してしまうとも思います。 不潔さに対する免疫がないし、社会の矛盾に素直に反応してしまいますから。

「未成年」は、5人の高校生の青春群像を描いているんですけど、クライマックスでは彼らが機動隊と衝突するんですね。 シンプルな意味でのテーマは、差別を止めてほしい、外見を含めて勉強や運動のできるできないということを、テレビや車と同じように比べないでくれ、ということです。 このモチーフになったのは、70年代の学生運動とか、東大の安田講堂事件なんですけど、そういう意味では大学の学生運動とは違うということですね。

ただ、僕は安田講堂事件のころ小学生だったんで、もちろんその時の記憶があるわけじゃないし、後になって本やテレビのドキュメンタリー番組で詳しく知っていったんですけど、この事件は、高校生のころの僕の趣向に合っていたんですよ。 ちょうど、森田童子のライブに行ってたころです。

70年安保というのは、話のすり替えだったと思うんですよ。 教授会への反発が、いつのまにかベトナム戦争反対になっていったし、無理にその主張の範囲を広げていった感じもしたんですね。 でも、そこにあった不純なものは嫌いだという嫌悪感は伝わってきたし、表面に出てきたわけじゃないんですけど、僕自身も明らかに性能を比べられてきましたから、この世の中は嫌だというところまでいってはいなかったけど、体制に対する反発が欲しかったんですね。 差別があったら闘うんだ、という考え方に傾倒していた部分もありましたし…。 その頃の僕ですか? サッカーをやってる健全なスポーツ少年でもあったんですけど(笑)。

大体、人間ってそんなにできた生き物じゃないですよね。 もし嫌なら、嫌だといって戦うしかそれを伝えることが出来ないと思うんですよ。 僕自身、デビュー前はなんでこんな状況にあるんだろう、とあせってましたし、自分がそれを強行突破できないジレンマもあったんです。 他人に認めてもらえるんなら、職業はサラリーマンでも何でもよかったんだけど、何も出来ない感じがして、それでも自分が駄目だとは思いたくないという…。

今の時代って、大学に行くのがあたりまえですよね。 そのなかで、いい大学に行くことを目標にするわけでしょ。 ただ、それが意味するのは、機会が均等に与えられていて昔のようにお金がないと大学に行けないわけじゃないんだから、もし受からなかったら自分が駄目だと思うしかないということなんですよ。 言い訳ができないんですから。これは平均ということの、マイナスの部分ですよ。

僕が作ったキャラクターは、全部自分から派生したものなんです。 今回の5人もね。 彼らの言動について、そうは思わない大人としての自分のセリフは、彼らではなく周りの大人たちの口から言わせるようにしてね。

桜井幸子さんは、3作品ともヒロインを演じてくれることになったんですが、今回はか弱くはないですね。 彼女が演じる萌香は、心臓に重大な疾患があって、結婚はおろかSEXさえも出来ないという設定なんです。 博人(いしだ)は、兄の恋人でもある彼女に恋してしまうわけですが、ここでは、SEXを越えた恋愛を作ろうと…。 もし大人になって、こういう女性に出会ったら、最初から恋愛対象から外してしまうというズルさがありますよね。 そんな状況を、やりたいさかりの高校生が凌駕するという…。 僕のヒロイン像は、もし僕が半身不随になっても、見捨てない女の子ですから。

この「未成年」という作品は、中高生の男の子に見てほしいという思いがとても強いんです。 それにこの作品は、抜けているところとこもるところというか、ドラマのトーンの振幅のバランスが(3作中で)一番とれていると思いますから、期待していただきたいですね。


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